能美先輩の弁明
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能美先輩の弁明

大麦こあら

きっとみんな哲学者

ネタバレ
2024年11月12日
このレビューはネタバレを含みます▼ 哲学は普遍的なもので言うなれば生きることなんだろうけど、それを題材にしましたと謳われたらたちまち引いてしまう自分がいる。でもそんな不安は杞憂で、堅苦しい言葉の往来も、安っぽい自分探しもなく、柔らかくて弱々しくて、可笑しな愛の対話の物語だった。
『テストが上手』な事を喜ぶ母親を持つ能美は、ぬるくさくて貞操観念も低いが、その分柔和でしなやかにカタチを変えられるのが良い。自分と考えの違う人間との対話を楽しめる(丹にはイラついてたけど)のは美点だし、現代のシャッター閉めるスピードたるや…だからね。
丹は1話でゲイをカムアウトした事よりも『魂の片割れを求めてる』と言っちゃうほうが衝撃だった。社会に出てから夢を語るような気恥ずかしさと甘ったるさ‥羨ましいんかも。
大学の事はよく知らんけど、きっと哲学なんか専攻しても一般的な就活に利点はないんだろう。今の日本が様々な分野の学者の卵たちを支えるほどのスマートさも豊かさもない事は察してはいるが、能美が最高の笑顔で愛しちゃってるって言えるくらいのものに出会って学ぶ時間を、めっちゃ美しくて豊かだなって、無駄なものなんてなんもないってことを頭の凝り固まった輩はもっとよく考えたほうがいい。
能美と丹だけが特別なんじゃなくて、他人と関わる時点で自分ひとりでは予想しなかった、未来も自分自身すら広がって深まるって宇宙を仰ぐくらいの広大な可能性を誰もが秘めている。バタフライエフェクトのような微細な動きの繋がりかもしんないし、たったひと言で世界が変わるかもしれん。そんな対話をこの漫画片手に始めてみたくなる‥そんな物語だった。
つまりは普通の恋愛漫画なんだと思う。その感想に行き着いたからこそ、入口に哲学を置いといたのはなんとも粋だなってスキップしそうな読後感だった。

1話読んで単行本で読みたい!て我慢してたから最終話からのplus(描き下ろし)は単話で追ってた人は特に堪らんかったろうな。BL漫画読むようになってからこの描き下ろしっていう文化?特別感?に悶えるわ‥。あの裸で大の字になってる能美の表情とか、それを見下ろす丹の表情とか‥!お前らの初夜ったら色気なんてなくて体当たりしてるみたいなホントに体だけの快楽だったかんな!それはそれでエロかったけれども‥!心も身体も満たされたお前らが見たかったんだ!ありがとう!
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