天国に手が届く
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天国に手が届く

夕映月子/木下けい子

天国ってあのあたりにありそうなのよね

ネタバレ
2025年2月26日
このレビューはネタバレを含みます▼ スマホ版でレビューがちょうど3000件の記念BL小説。「天国に手が届く」→「恋してる、生きていく」→「あなたを好きになりたくない」の山岳シリーズ。もう会えなくなった友人や身近なひとのことも思い出してシリーズと番外編は涙なしで読めなかった。「天国〜」と「恋してる〜」のSS、掌編が作者さんのXから辿れるブログでいくつか読めます。夕映先生は21年に逝去され、いつかは読めなくなってしまうかもしれないので、ぜひその前に読んでほしい。最後の20年8月山の日のブログ更新が「天国〜」のCPのSSで、自分が死んだら、、っていう遺言に近いもの。夕映先生も同じように感じていたのかもしれないと思うと胸がつまって、泣きました。きっと先生は今あの空と山のあわいで自由に駆けまわり遊んでいらっしゃるのだと思う。

ここしばらく、ある雪山に滞在していたんです。毎日快晴で空はどこまでも青く、雪渓の白さとあいまって、稜線上の境が黒く影に見えてしまうくらいにコントラストが強い絶景を見上げながら、天国ってあのあたりにありそうだなって、思ってた。先月亡くなった友達のこと、ずっと前に亡くなった家族のことも、きっとそのあたりにいそうだなと、見えないのに探してしまいそうになって。
そんな数日を送ってて、屋外のカフェで読むなら何がいいかなーと積読の山からのシリーズ。大好きな木下先生の表紙だし、夕映先生の他の作品も読んでて好きだったから、ハズレはないと大事にしまっておいたのを、まさにジャストタイミングで掬い上げました。

山で行方不明になってしまった尊敬する唯一の家族にいつかは会えるかもしれないとひとりで山々をめぐる小田切と、彼と一緒に登りたいと願う佐和のお話。佐和の生来の明るさに救われます。山頂から手をのばして、天国に手が届きそうって、私も思った。あそこからなら手が届くのよ。

登山が趣味で、きっとたくさんの山を自分でも巡って写真も話も見て聞いていらっしゃって、どんなに危険だろうと清冽で荘厳な山から離れられない魅力を伝えられる夕映先生にしか書けない、ほんとうに素晴らしい名作シリーズです。

シリーズのタグついてなくて、電子化のタイミングのせいで刊行順がずれてますが、作品時系列のこの順番で読んでください。(3作目「あなたを〜」の後半が「恋してる〜」のCPがメインの番外編で最終的には3CP登場して「天国〜」のその後も語られます)
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