声はして涙は見えぬ濡れ烏
」のレビュー

声はして涙は見えぬ濡れ烏

ウノハナ

ひと夏のその後と大事にされ過ぎた金魚たち

ネタバレ
2025年5月21日
このレビューはネタバレを含みます▼ ハイブリッド・スターダストのスピンオフ。秘書会沢×社長代理凛さん。凛さんが院生で会沢が大学生、学生時代の馴れ初め。時系列としてはこちらが先なのでスピン元未読でも違和感無く読めます。
梅雨の始まりから晩夏、初秋にかけて、お隣さん同士のひと夏の恋とその後のお話。夏の終わりの淋しいような切ないような空気感、お祭りの喧騒、雨音、風鈴、扇風機、作中に漂うノスタルジックな雰囲気がとても好きで何度も読み返した大切な作品です。そしてですね、ひと夏の、にはならなかったんですよねえぇ!!(クソデカ感情溢れるの早すぎ問題)
私生児として産まれ生い立ち複雑な凛さんが圧倒的光属性会沢と出会い、徐々に心を開いて自分の中で燻っていた過去を許して前に進む決断をする救済ストーリーなのですが、この会沢がまたすごいんです。凛さんとの数か月を若気の至りとして綺麗な思い出のまま心の奥にしまい込まずに、努力を重ね続けて正面玄関から堂々と会いに行った行動力と実現可能な地頭の良さ、規格外の包容力。夏祭りの帰り道、父性に飢えている凛さんが在りし日の父親の面影を会沢に重ねてやっと心からの本音を吐露できた場面は何度読んでもグッときます。
細かいところで携帯電話とかノートPCに(ガラケー、notフラットキーボード)年代を感じさせる演出が実にエモい。
それなりに大きな企業だと新卒入社後一週間足らずの時期はまだリクルートスーツ着て研修中なのでは…何なら本配属決定は数か月先では…などと思ったりするのは、野暮ですね。インターンで暫く働いて人脈を作り地ならしをしてから入社した…全ては凛さん付秘書になるために!と脳内補完しておきます。
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