紙の舟で眠る【単行本版】
」のレビュー

紙の舟で眠る【単行本版】

八田てき

読後感は良い

ネタバレ
2025年7月11日
このレビューはネタバレを含みます▼ 積読本から。ヘビーそうな内容に尻込みしてずっと読まずに置いておいたのですが、現在キャンペーンやクーポンでシーモアさん激推しなので「今こそ読まねば!」と思い立って意を決して読んでみました。

元天才脚本家の憬と書く事をやめ自暴自棄になった彼を助けたカメラマンの卵・耀一。
大ヒットを連発する憬がモデルにする人物が次々と命を落とすという謎。憬の妄想かと思ったけど現実にあったことのようで疑問を残したまま物語が進行します。全体的に死の香りが漂い妄想と現実の境が曖昧なような耽美的な雰囲気。憬は夢の中に出てくる死神に苦しみます。
自分の中の死神と決別すべく再び筆を取った憬と憬に引き摺られるように精神に異常をきたしてきたかのような耀一。そんな憬が自分自身をモデルにした脚本を書くように依頼され不穏な空気で上巻が終わります。
モデルにした人物が不幸になるというのはどういうことか。「ドグラ・マグラ」のような読むと精神に異常をきたす奇書なのか。でも憬の作品は大ヒット映画となっているのに?
下巻でその謎が解けます。憬が最初に死神に出会った出来事と思っていた電車事故のもっと前に死神の始まりがあり自分の記憶の奥底に閉じ込めていたこと、作品のモデル達が不幸になっていたのは呪いでも妄想でもなくその状況を作り出していた人物がいたこと。本当に怖ろしいのは呪いでもなんでもなく生きている人間なんだな・・。
守るものがあるから強くなれた、同じ夢を見る相手がいるから前に進めた。映画で告白とは壮大で熱烈なラブレターです。全体的に重苦しい作品ではあったけど、穏やかで素敵なラストで読後感はすごく良かった。
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