そんな激情で殴られたい【単行本版】
」のレビュー

そんな激情で殴られたい【単行本版】

紫比呂

これはきつい。きついけどハマる。

ネタバレ
2025年7月11日
このレビューはネタバレを含みます▼ 読み始めて一瞬購入したことを後悔しましたが、読後感が不思議でもう一度読みに行ったら2人の事がちょっと好きになっている自分にびっくり。暴力やいじめ、DVなど心がざわつく描写がかなりありますので地雷の方はNGか・・・それでも玄野という男をちょっと見てみてほしい気もします。

以下とてもネタバレしてます。

じめっとした空気と焦燥感をかきたてる騒々しい蝉の鳴き声。
不気味な存在感を漂わせながら暴力を受け入れ興奮する攻めと、気に入らなければすぐ怒鳴り殴る受け。
2人の負の感情にえぐられながらも読む手がとまらない。

人間の痛みや弱さは色んな形で表面化するものだし、受けの七瀬の”弱いからすぐ暴力へ直結”というのはわかるんです。
でも攻めの玄野は闇が深くとても難解で理解の範疇を軽く超えてました。彼の痛みは何に形を変えたのだろうか?自分に向けられる負の感情を受け入れ、ねっとりと性的にやり返す無表情の玄野が不気味だけど本当に目が離せない。
玄野が虫を食す行為も過去を考えればむしろ忌避して当たり前だと思うのだけど・・・その過去ごと飲み込んでいるの?
一見奴隷のように見えて実は全く服従していない玄野がだんだんかっこよくさえ思えてきます。

2人は可愛いとか愛おしいとかそんなんじゃなく、でも2人にしかわからない何かで繋がっているのは確か。相手を欲する形にはいろいろあることに気付かされます。
玄野のように怒り、恐怖、殴るなど剥き出しの負の感情を向けられてはじめて心が動き欲情する人も実際に存在するのだろうな・・・嫉妬が嬉しいのもその要素が少しある気がして人間の心理は奥深いなと思います。
幸福感はなにも正の感情から生まれるとは限らないということか・・・読んでいるわたしも不思議と最後はこの2人に満たされてました。
いいねしたユーザ9人
レビューをシェアしよう!