さよなら、あの日の服従【単行本版(シーモア限定描き下ろし付)】
せきとう
このレビューはネタバレを含みます▼
弱者と強者の逆転劇。
初読み作家さま、夜の街を舞台にして、その筆致がネオン街の風情にマッチしている。伸び代を感じる。
夕焼けの校舎にドボルザークの曲が流れている。傷つけられる鯉川皐、暴力で蔑む柏木圭哉。高校時代にどのくらいイジメは続いたのだろうか。暴力の理由は鯉川がゲイという噂だけだった。
柏木は高校では強者になれたが、社会に出れば広い世界が彼を反社の末端で小遣い稼ぎの日々にする。卒業後、鯉川は夜の街でメイクと衣装で着飾ってバー「QUEEN」のNO.1。しかも反社幹部のお気に入りに成長していた。
この作品が面白いのは逆転劇と夜の街に潜む人たちの生きざまが見え隠れするところ。弱者側になった柏木。QUEENのママや見た目は悪いが頼りになるアヤメ。反社幹部タツミの過去。そして強者側へ変化した鯉川。柏木は家が貧乏で兄弟が沢山いて教育を受ける時間がなかったのかもしれない。だからといって暴力で傷つけていいわけじゃない。再会できたとき、鯉川は柏木に強い復讐心を持ったはず。ズタボロにできるチャンスを掴めたとき、どんな選択をとったのか。ここからの展開は鯉川の人間性の凄さを感じた。本当に弱い者は恐れてばかりだ。強くなるには変化を恐れないこと。柏木は自分の変化と今までの清算に目を向けていく。変化のきっかけはいつも鯉川だ。綺麗な顔立ちに色気のあるホクロ。彼の好きな夕飯は親子丼。家路を急ぐ鯉川のアパートには灯がついている。
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