このレビューはネタバレを含みます▼
厄介な客とタクシードライバーの逃避行BL 209頁 星☆4.0 しょっぱなからアクセルを踏み込んだ始まり。
東京渋谷、平日の夜、2月なのに外は強い雨が降っている。タクシー運転手・綱吉平(たいら)は乗り込んできた客に思わず振り返る。金髪、ピアス、薄いTシャツとパンツにスニーカーのそいつは「美瑛のカシワの木(北海道の観光名所)まで」と目的地を告げる。濡れたパンツについた危険な匂いが普通の客ではないことを知らせていた。
波乱のオープニング。青年誌風のタッチでスッキリとした男たち。それに丁寧な情景描写で視界良好。乱平(らんぺい)と名乗る若者は条件つきで目的地へ乗車することになる。乱平は若くて綺麗な顔立ち。普段は大人びてみえるが、エ○中の表情が素の幼さや、熱のこもった視線でなんともズルい。平凡なサラリーマンが手練れの誘惑に抗えるはずもなく、あっという間に陥落。気持ちいいのが激しい動きで伝わってくる。
ほどなく乱平を追いかけてくる怪しい男2人。逃避行に命の危険もプラスされ、事態はどんどん暗くなっていく。ひきかえ平と乱平の繋がりは深くなる。それはストックホルム症候群のような心理にも見える。しかし平の人目から離れる旅館を選び、根回しをするあたりは極限状況に似つかわしくない冷静さ。非凡な真のカッコよさが見える。とうとう犯罪の正体を携えて刑事・澤尾(さわお)が登場。役者が揃うと物語がチェンジアップしていく。
深夜ドラマで観たいシナリオ。数日間の逃避行で人生が変わった平。そのきっかけになった乱平。口先だけの男も多いが、平の言葉選びは秀逸。男の誠が愛になる。
余談だが、今年の初夏にフェリーで北海道へ。苫小牧港から広大な農地を抜けて真っ直ぐな道を走る。ハイになれる時間、また行きたくなった。