月とピエタ
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月とピエタ

大地幹

罪深い

ネタバレ
2025年10月26日
このレビューはネタバレを含みます▼ 陽介のアンバランスさには何か理由があるとは思っていたけれど、明確になるのは下巻。

自分の性的指向を無意識に否定し続けていた陽介。ホモという言葉に過敏に反応し、自分に向けられる場合は異常に怒る。反動形成。
クリスチャンの家で、兄が男性の恋人ができたら、家から出され音信不通。家が壊れた、「あなたは普通に」と言われ続けた幼少期。
無理して女子と付き合って、笑って優しくして傷つけないように振る舞い、自分に嘘をつき続けた。
それは、クリスチャンである一家が、兄をいなかったことにし、同性愛を「神にそわない」ことだとしたから。
罪深い。個性を個人の性的指向を当たり前のように認めなかった。家族でいられるように、おかしいと思われないように、「普通」でいられるようにと言い聞かせ、生きづらくなった。

目を奪われた人は、解剖学の変人と言われた講師。
生活や自分にあまり注意を払わず、物をよくなくし、言葉を飾らないから相手を怒らせることがある。
でも、一緒にいると息が楽になる。

目が月のように綺麗。
ピエタは宗教画。ブグローの描くピエタは哀れみよりも怒りを表現しているように見え、見透かされるよう自分が怒られているように感じる陽介。
自分の内面との葛藤を打ち破ったのは、大切な人が傷つけられたときの怒りと失うかもしれない不安。
陽介のピエタは、月のような愛しい人に出会えたことで、慈愛に変わったのかも。

わがままでなく、ありのままに生きることの難しさ、葛藤の乗り越え方、難しいテーマが「絵を描く」ことで表現されているようにも感じる。

エチシーンはなし。でも、2人は恋人になる。
大切なものは、他者の目など気にならないほど価値があるというニュアンスは素敵だ。

上巻のオマケに、まだ上巻で付き合ってないのに、付き合って3年の話があるんだけど(笑)下巻に入れて欲しいな(笑)
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