春というタイトルは季節を指す言葉かと読む前は思っていたのですが、亡くなった妹の名前だったのです。
そして呪いが題材というわけでもなく。死人に口なし…。死者に謝りたいことがあっても、もう許しを乞う機会すらないのです。罪悪感を抱えたまま、今後一生知ることはできない死者の気持ちに怯えて生きなければならない。
罪の意識で自ら「春」という存在の「呪い」にかかるのです。
正直絵柄は全く好きじゃありませんし、絵が上手いとも思えません…。物凄い男前という設定の冬吾も、描写で初めて「あ、イケメンの絵なんだコレ」と思っちゃいました。そんなわけで私は全然好きになれない絵柄です。が、物語の題材や、描写の仕方など惹き込まれるものがあり、この作家さんが人気なことに頷けるなぁと思うだけの魅力は感じました。
妹が死んだことはとても悲しいのに、妹の彼氏であった冬吾に惹かれてしまった夏美の気持ちも、妹と半ば政略結婚のように付き合っていた冬吾が夏美に惹かれていた気持ちも理解できる。
妹の春がそんな二人に気づき始めて、大好きな姉だったはずなのに、彼のこととなると私が死んだとしてもくっつくなんて許さないと思う気持ちもとてもリアルだなと思いました。「お姉ちゃんと幸せになってね」なんて言い出すお綺麗な物語の方が世の中には多いと思います。その分余計にリアルだなと思いました。
だからこそ辛いし、でも死んだ彼女がこれからを生きる彼らの思いを縛り付ける権利もなくて…。それでもやっぱり春を思うとこれからも生き続ける二人はずっと辛いと思います。この呪いから解き放たれることはきっとないだろうと。
二人に呪いを残して死んでいった春はズルいと思うし、春が亡くなって二人で生きる道を選んだ夏美と冬吾も春からすればズルいと思います。
春が亡くならなければ、この先何年たとうとも夏美と冬吾が付き合うなんて未来はなかっただろうなと思います。この二人が不倫とかするとは思えないし。
人生何があるか分からないし、春が死んでしまって、こんな未来になったんだろうな、と。
何気ない日常の物語が、沢山のメッセージを持ってリアルに綴られている。そんな作品に感じました。