駆け出しの小説家が年に一度避暑地で過ごす夏の思い出とそこでの逢瀬から生まれた恋心を描いたお話。
洋画のような雰囲気を持った作品で、静かに進むお話の展開と美しい風景、避暑地という非日常感が相まって、シネマティックに楽しめます。ホームステイ先の姉弟の辛い過去やネッドの家族との確執などの現実から逃れ、皆が心穏やかに過ごすことの幸せを一緒に噛みしめているような気分に浸れます。
ネッドとアルが惹かれ合う様子もとてもささやかですが、現実のツラい問題が直面してはじめて、二人がお互いを強く求め合う様は人間らしい生々しさを感じました。結局一度は離れてしまいますがまた再び出会い、あの家で幸せに暮らすという結末はとても良かったと思います。
またネッドとアルのキャラ作りもとても上手いと思いました。ネッドは一見すると、明るくイケメンで才能に溢れた青年ですが、厳格な家庭から逃げ出すこともせず、決められたレールの上をそれが運命なのだと受け入れて生きる、流されるままの人だと感じました。逆にアルは、辛い過去もどうにもならない未来も受け止めて、静かに一歩一歩大地を踏みしめて生きる強さを感じました。二人が再会出来たのもアルの行動力によるもの。見た目とはアンバランスな関係性が面白いと思います。そしてそんな二人を作ったのが家族という環境です。家族愛をたっぷりと感じながら育ったものの一人になってしまったアルと、家族愛には無縁だったが努力と時間で愛のかけらを掴みはじめたネッド。お互いが求めていた家族と愛がお互いで補完しあえる関係性がとても素敵だと思いました。
とにかく全てにおいてとても美しい物語です。海の匂いや風、レモネードの爽やかさを感じながら読みたい作品です。