おどろおどろしくて、妖しくて。読む前は、羽の生えてるのは天使か悪魔だと私は思っていたから、ああいたわ、ソレもそうだったわ、という感じ。日本の昔話の常連が現代にイケメンでこの世界にすぐ隣に住んでいる設定。
引き込まれていき、人間ではない者に好かれてしまう主人公実沙緒が妖の世界に繰り広げられる嫁争奪戦の渦中に巻き込まれるのを、ついつい最後まで見届けてしまう。2006-12年全18巻。同時期発表の「町でうわさの天狗の子」(岩本ナオ)も同じ出版社。
広い空間利用と夥しい犠牲者や同族なのに敵対する勢力のぶつかり合い、などの人数規模、なんだか怖いけど読むのが止まらなくなる、といった魅力がある。
主人公の女の子はただ愛されてるだけなのだが、そこがこの話の胆。何だかんだの争いごとを匡が制してから、話の筋は次の山場へと向かう。実沙緒がなぜそこまで狙われちゃったのか、という驚愕の隠れたさだめ。
本来匡が相手となるわけでなかったのに、実沙緒を他でもない自分が嫁にしたくて、実沙緒の元に帰ってくるために、大変な思いをして試練をくぐってきて、というところ、凄まじい愛の力を見せてくれる。また、自分達が愛し合うほどに悲劇に向かうと知ったときの鬼気迫る場面も、結末が見えないときはどうなっちゃうのか、やっぱり駄目なのか、と、読み手としては彼らの嘆きを分かち合うのだけれど、そこも、匡が衝撃の対策を打つ。
ストーリーの波瀾万丈感が、予測のつかない緊張と高揚を運んでくる。ありきたりでなさすぎて、高屋先生のフルーツバスケットの世界を無意識に相対比較していた。(双方共に面白い)
ストーリーテリングはパワーとユニークさで並ぶものは他にはないという気がする。
絵が、二人の絵が、いやらしい。元の掲載誌の傾向そのままに、無駄に絡み合いシーンを作りすぎていて、その点が、この作品の立ち位置を微妙なものにしたと思う。
取って付けたように、結婚する段になって実沙緒のお母さんがストーリーを引っ張る部分があるが、長編の中での筋運びではよほどもっと長い闘いや対決を経てきているだけに、あれ?との感じが拭えない。しかしそれはそれで娘をそういう妖しに嫁にやれるだろうかとの読者の疑問を消化させてもくれていて、行き届いてるとも言える。
各巻の表紙が、桜小路先生のセンスが効いてるのだろうと思わせる、独特の印象で、表紙で関心を引き出すのが、うまいと思う。