コンクリート・ガーデン
」のレビュー

コンクリート・ガーデン

寿たらこ

異なる価値観の地平を越えてくるもの

ネタバレ
2021年8月4日
このレビューはネタバレを含みます▼ 69ページの短編。
「ガーデン」とは花や果物・野菜などを育成・栽培する土地。コンクリートでできたガーデンに捕らわれていたのはどちらなのか…?
一瞬これは倫理観を問う物語と思いそうになりますが、違う見方もできるのかなと思います。倫理というと人間の行いについての戒めで、人が社会生活で守るべき道徳やモラル、行動規範や善悪の基準 云々……要するに「人としてそれってどうなのよ?」と糺すのが倫理。
だが朱鷺(とき)はクローン技術で再生された天使で人間ではないと最初に示され、彼が行う一切は "人間の" 倫理には抵触しない。僕たち人間は他の生き物を食べるけど天使は人間を食べないでと言ったも同然の清春(きよはる)も、その倫理観では朱鷺を納得させられなかった。人間が朱鷺に対してしていることもまた、彼が人間ではないという理由でこの世界では不問にされている。

この物語を倫理による糾弾とは別に考えようとするなら、
「朱鷺さん、大切にされているんですね」
「『優しい考え方』をするんだな君は」
という2人の会話に鍵がある気がします。

何かを判断をする際、先にインプットされている情報やら価値観が基準になる以上、必ず何らかの予断や先入観、ひいき目で物事を見ているはず(自分では世界をありのまま正しく見ているつもりであっても)。あの先生の作品だから間違いないとか(私か…)、逆に坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとか。誰かにとっての最高が別の誰かにとっては最低とか(自萌え他萎え)。価値観の地平を異にする朱鷺と科学者らのように、何をどうしようと相容れない同士はいる。みんなも朱鷺とわかり合いたいんだと性善説に立つ清春が見る世界と、自分を汚れ役として搾取する人間に倦んでいる朱鷺が見る世界とは、両極くらい遠くかけ離れていた。それでも(それだからこそ)その地平を越えて2人の間に血や種属に基づくばかりでない理解と愛が生まれる物語に、何度読んでも感動してしまう。
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