花丸漫画 恋の分量
」のレビュー

花丸漫画 恋の分量

斑目ヒロ

視点を変えると、表紙の雰囲気まで一変する

ネタバレ
2021年9月3日
このレビューはネタバレを含みます▼ 短編です(41ページ/100pt)。
人の間に埋もれがちな大人しい個性の大学生トバリが、入学式の日に自分と真逆の華やかな容姿で人好きのする同級生ミツに声を掛けられ…。
“恋の分量”と思っているのは果たして誰なのか?それは本当に“量”なのか。
トバリ視点で進むこの物語を、第三者視点で眺め直すと、人慣れない青年が目をつけられ揺さぶられ…という話に見えてくる。
テーマは普遍的でもミニマムな表現が却って印象を強め、いつまでも胸に余韻を残します。


(9/13追記)
*フォロー様方へ:
「この話は単に性格や考え、価値観の不一致、恋の“分量”の違いでは?」------との見解、わかります。まさにトバリも最初はそう思っていたと私も思います、「わかり合えるかも知れない/わかり合えるはずだ」的に…。
私が注目したのは反復する描写------たとえば初めて二人が体を繋いだ時にミツがトバリの首を手加減なく絞めたこと(息がヒュッとなるほどの力がどれ位のものか自分でやってみると分かる)。または、恋人をというより物体を見るような無機質な目を向けるミツの視線に、翌日まで尾を引くほどトバリが感じた恐怖。あるいは、二人の関係が変質したことをトバリが一方的に自分の非だと思い込んでいること。もしくは、それまでの優しい口調が一変し、「離れないでね」でなく「離れないよな?」と強く言われてトバリが目を見開き体を震わせたこと等々のディテールです。
言葉に乗せた感情の、ミツへの伝わらなさ加減や彼の反応の異質さは、トバリが単に“悲しい”ではなく“怖い”と感じるほどのレベルや性質ですよ、と読み手に伝える作者の意図的な繰返し、と自分は受け取りました。
感情や良心、罪悪感や共感性の欠如、冷酷さとエゴイズム、特異な自意識。他方で魅力的な外見と振舞い、口達者。優しさと脅しを使い分け自分の思惑どおりに他人が思考・行動するよう誘導するのが巧み…… 反社会性パーソナリティ障害(ASPDいわゆるサイコパス) の特徴そのままを作者が描いた風だなぁと思いました。
サイコパス相手では諸々の不一致の折り合いなど望めないから逃げるが一番、なのに思考操作され逃げられず搦め捕られてしまう……一般小説でも少女漫画でもBLでも'90年代末から多くの作家が繰返し描く定番人気テーマの一つで、この作品をその系統だと解釈するなら、セオリー通りの展開と結末、とてもいい短編だと思いレビューしました。
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