親愛なるジーンへ
」のレビュー

親愛なるジーンへ

吾妻香夜

彼らの犠牲のもとに成り立つ自分達の自由

ネタバレ
2021年10月21日
このレビューはネタバレを含みます▼ 皆さんに愛されているこちらの作品、初めて読んだ時あまりの辛さに1週間程立ち直る事ができませんでした。僕がこの作品になぜこれ程心抉られるかというと、当時の米社会をジーンとトレヴァーの物語を通してあまりにも克明に描写しているからです。60〜80年代米というと家族や宗教、基本的人権への価値観や概念が一変する時代であり、その中でも特にクイア/性の多様性への認識が徐々に変動する時代でもありました。例えば70'後半、ハーヴェイ・ミルク(ゲイと公表し市会議員に当選した全米初の人物)と彼の仲間達を筆頭に、今で言うLGBT運動が全国的に広がり始め、そののちにミルクが暗殺されるというあまりにも残酷で、しかしそれまでの米歴史を180度変えた革新的な出来事がありました。また80'初頭になると、HIV-AIDSを始めとする性病への正しい認識を拡散する為の運動もゲイコミュニティ中心に始動しました(性病="ホモ"の病気と間違った知識が蔓延っていました)。この時代の米はまだ差別が顕在する社会で、クイアが頻繁に道で暴行されたり殺害されたりする世の中でした。近年でもトランスジェンダーの方が殺害されるという悲惨過ぎる事件が毎年何十件と起きている事が報告されています。こういった時代背景の中で本来の自分を隠しながら生きるトレヴァーやジーン。勿論彼らは架空の人物ですが、現在に至るまで彼らと同じ様に抑圧された酷い差別社会の中に息苦しく生きていた人々が実在したと考えるだけで、夜も眠れなくなる程憤りを感じ、悲しく、胸が張り裂けそうな思いになります。無論、様々な理由でありのままの自分を出せず苦しんでいる人々はどの国でもいつの時代にもいるのですが。ジーンやトレヴァーの様に、彼らの命、人権、自由など、全ての人の犠牲のもとに自分達の"自由"が成り立っているのだと思うと、溢れ出る感情に呑み込まれ涙が止まらなくなります。この作品に対する思い入れが特に強く書きたい事は盛沢山なのですが、ラムス〜同様字余りしそうなので…。「性」というテーマは僕にとってあまりにも大きく重要な事柄で、どうしても熱くなってしまい、個人的な思いや主張が濃いレビューになってしまいました…ごめんなさい。申し訳ないです。物語はまだ完結していませんが、ジーンとトレヴァーの幸せを心から願います。どうか、どうか…。これ程まで心動かされる大作を描いて下さる吾妻先生には尊敬の念と感謝の気持ちしかありません
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