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ナツメカズキ

涙についての一考

ネタバレ
2021年11月15日
このレビューはネタバレを含みます▼ 何かと言うとすぐ泣く大人を私は信じない。
涙こそが感受性の豊かさのバロメーターだと思うのは古くて安易な幻想だ。涙という分かりやすい記号にばかり気をとられていると、相手も自分も、却って心情を伝え損ね汲み取り損ねる気がしてならない。涙に肩代わりさせ言語化を放棄し続ければ、細やかな感情を表現できる語彙を早々に失うに違いない。

それなのに、いや、それだからこそ。
涙を見せない強ばった表情の裏から伝わる感情の繊細さ・激しさはどうだろう。
そうして我慢に我慢を重ねた人の感情が臨界点に達し、遂に涙に変わるさまを見ると胸がつぶれそうになるし、シャワーの下、与えられた言葉にこらえきれず流すシロの涙が強く胸を打つのだ。

どこかの屋上から雨に煙る町並みを眼下に見る、ずぶ濡れの後ろ姿。
死のうとしたのか…?でも今だって既に死んでいるみたいだ。だとしたら飛び降りることに何の意味があるだろう。泣いているのかと問われ、泣いていないと返す。その言葉に滲む彼の強がりがやりきれない。頬を濡らす雨が呼び水となりやっと流す涙が、だが少しも心を楽にしないほどの喪失。自己憐憫も自己陶酔も入る余地のない全き絶望。悲しみが深いほど、苦しみが強いほど、そう易々と心を安らかにする涙など零れはしないのだ。

閉ざした心の扉の内側で小さくうずくまり、何も見ず聞かず何も感じないモノになろうとしたシロに、目覚めよと戸を叩き、外から扉をこじ開けようと力を振り絞り自らも傷つきながら手を差しのべる信虎。2人の有りようにふと、ウテナとアンシーのあの名シーンがダブり胸が震えた。
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