午前2時まで君のもの
」のレビュー

午前2時まで君のもの

奥田枠

午前2時を過ぎてもずっと

ネタバレ
2021年12月29日
このレビューはネタバレを含みます▼ 日々紡がれていくはずの記憶が翌朝には無になるミチ。
ミチ、恭一、灯さん。3人それぞれのやるせない感情が読み手に痛い程に流れ込んできて涙が溢れます。心情や表情の描写が素晴らしく誰の立場に立って読んでもそれぞれに深く感情移入できて、本当に読んで良かった作品です。

8年前の事故が原因で、毎日記憶がリセットされ朝目覚めると21歳の自分に戻ってしまうミチ。21歳の自分は同級生の恭一にずっと片想いだったはずなのに、目が覚めると目の前には知らない女性、灯の姿が。

現状を受け入れようと明るく前向きに見えるミチが、自分の記憶の中と変わらず寄り添ってくれる親友の恭一を前に、不安や恋しさがこみあげ、求めてしまう気持ちが痛い程に伝わってきます。
2人の関係は倫理的に赦される事ではないけれど涙を流しながら恭一に訴えるミチの姿を見ると、責める気持ちが霞んでしまう。リセットされ初対面の人と…はもし自分なら、と想像するだけで難しい。

様々な事を覚悟し支えてくれた灯さんも、そんな2人を目の当たりにしながらも耐えてミチのそばを離れなかった恭一も、忘れてしまう事で周りを傷付ける事に苦しみもがくミチも、それぞれが精一杯で、その3人の想いを一つも取りこぼしたくないと思うくらいに夢中で読んでいました。

スマホの件はミチの為であると同時に恭一の独占欲でもあるんだろうな。
灯さんの事を聞かされた時の、きっと血を吐くほどの苦しい胸の内を思うと祈るように朝を待つ恭一の姿にまた涙が零れてしまう。
灯さんを思うと手放しで良かったとは言い難いけれど、それでもこの結末で良かったねと私は言いたい。

この先も恭一に片思いをしている21歳のまま朝を迎え続けるミチ。
でもこれからは、記憶をリセットされるという厳しい現実と同時に、長い長い片思いが実る飛び上がるくらいに幸せな瞬間も味わえる。
きっとミチが今のままの症状でも一番自然でいられる最良のラストだったのではないかと思います。

午前2時を過ぎ2人で眩しい朝日を初めて迎えた日。
たとえ忘れてしまっても、これから先何度も繰り返す愛し愛される悦び。
そしてずっと鮮やかなままの恋心を持ち続けていく未来。
ミチにも恭一にも、もちろん灯さんにも、幸せな明日が待っている。
そう信じています。
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