スモークブルーの雨のち晴れ
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スモークブルーの雨のち晴れ

波真田かもめ

どのページも目が喜ぶ神作品

2022年11月24日
波真田先生の持ち味が極限まで高められて世に解き放たれたような、凄い傑作だと思いました。まだ結末を見届けたわけではありませんが、2巻を読み終えても最初に読み始めた時の高揚感が全く途切れず、深い満足感に満たされています。

元々雰囲気のある背景を描かれる作家さんだとは思っていましたが、今回の主な舞台となる久慈の家の描写が素晴らしい。確実にモデルとなる家が実在しているんだろうな(複数の家をミックスしているかもしれませんが)という詳細な絵で、近所に住んでたら「この家やん!」と気付きそう。外部も内部も丁寧に描かれ、読者もこの家に愛着を持たずには居られない。特に書斎が良くて、ストーリーとも密に絡んでおり、画面から古い紙の匂いがしてきそうです。
各章の扉絵も、久慈の家のあちらこちら、雰囲気の良いカフェ、どこかで見たような路肩、と写真集を見ているよう。ストーリー中も効果的な無背景以外は可能な限り背景が描かれており、ページを捲るたびに目が喜びます。
目が喜ぶというともう一つ、久慈の黒髪ロン毛のビジュアルも素晴らしい。ひっつめてる時、サングラスしてる時、そして身体を重ねている時…全ての久慈の黒髪が美しくて、目が惹きつけられます。
久慈も良いが、吾妻の無造作なスタイルも良くて。サラリーマン時代の堅い格好の2人が描かれているから、今のラフな2人のギャップにまたギュンと来ます。
これらのビジュアルによる強烈な説得力に裏打ちされて、エリート社会に組み込まれていた2人が、現在そこから降りてゆっくりと歩んでいることが、リアルな空気感をもって伝わってきます。

丁寧に描き込まれた背景と共に、2人が身体を重ねるシーンも素晴らしく。大人な2人の、本心から少しずらしたリラックスした会話で始まる行為。クールな久慈に、上手に甘えてみせる吾妻。会話の軽妙さとは裏腹に、何度も体勢を変えて描かれる2人の熱の籠った絡みは抜群に色気があります。

通常は、ワクワクとして早くこのストーリーの結末を読みたい〜と悶えるものだと思うのですが、本作は何回も何回もページをめくって、いつまでもこの2人の世界を眺めていたいような、そんな作品でした。
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