寄宿舎の黒猫は夜をしらない
」のレビュー

寄宿舎の黒猫は夜をしらない

鯛野ニッケ

吸血人類にとっての愛の意味とは

2023年7月5日
世界中から良家の子息が集まる寄宿学校で起こる吸血鬼騒ぎをきっかけにした人間と吸血鬼との愛を知るお話。
物語の閉鎖的な設定やサスペンス調の展開、吸血鬼という題材など、一見するとよくありがちなお話ですが、そこからのお話の膨らませ方や細部の設定の美しさなど、ニッケ先生ならではの良さが随所に表現されています。この設定でこんなにも切ないお話になるのは流石です。
物語はパベルとアウラが惹かれ合ったことで歪みが生じ、吸血行動への暴走に繋がりますが、そこに至るまでのパベルの失恋の繰り返しは胸が痛くなりました。愛を与え、想いを返してもらうことは幸せなことなのに、パベルが得たものは絶望と悲しみだけ。そして思い知らされる人類との種族の違い。自分たちのことを吸血人類と呼び、ヒトとの共存を目指しているのに、ヒトを愛し愛されることが破滅に繋がるなんて皮肉すぎる存在だと感じました。
そして同じように惹かれ合うジーンとユキ。愛さないことでしか彼らを幸せに出来ないことに不条理を感じ、「愛してしまってごめんなさい」と謝るユキの姿は切なさの極みでした。そんなユキを傷つけたくないけれど愛して欲しいと願うジーンの表情もまた切なく、ユキへの想いに吸血鬼の愛の渇望を感じました。
吸血人類の孤独と虚しさに寄り添い、彼らを理解しようとしたユキと、ユキの愛に応えたいジーンが変革をもたらし始めたところで物語は完結。期待を見いだす素敵な締めだったと思います。でもやっぱり描き下ろしまでが1つのお話。吸血行動に対しては申し訳なさが付き纏う二人ですが、幸せな姿に心からホッとしました。ところどころに出るニッケ先生のはっちゃけた明るいテンションの描写も大好きで、幸せを感じられる結末に感動しました。星の鱗粉という表現もとても素敵な言葉だったと思います。
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