8月のロスタイム
」のレビュー

8月のロスタイム

桃子すいか

諦めないでと祈る気持ちで読んでいた

ネタバレ
2024年3月24日
このレビューはネタバレを含みます▼ 桃子すいか先生は、読む都度、心の臓がギュッとつかまれる感覚を味わう作品なのが印象的で、ストーリーの詳細を忘れても、その感覚を覚えている作家さん。
今回も、朗らかな印象の絵柄から、油断して読み始めたら、ふいに訪れる感傷的な感情に、心の臓がギューッとつかまれてしまった。

本作は、サッカー部員の高校生と同じ病室の美人の青年を描いた「隣の美人草」、大学の同級生同士の一夏の恋を描いた「8月のロスタイム」、元恋人の甥の高校生との思いがけぬ出会いを黒髪メガネ視点で描く「枯れ木に蕾」と、その高校生視点で描いた「枯れ木に蕾」、幼なじみの大学受験生同志の片思いを描いた「冬来たりなば」。4つの季節と、その季節に合わせた植物が登場したりするセンスも良くて、満ち足りた気分になる。

どうして、桃子すいか先生の作品はこうも印象的なのか。
表題の作品に一番強く表れている特徴が、人生における諦め、諦念を抱えた人々が、それに負けそうになる瞬間を切り取るのがうまいのだと思う。その感覚は、読み手が、たくさんの場面で性別や親など自分で選べない事情によって、物事を諦めたときの感情を引き起こすのだろうな。

そんな経験をしてきた読み手は、どうしても暗い、悲劇的な展開を予想してしまう。人生を諦めないで、と祈る気持ちを抱えつつ。
そんな期待と絶望が入り混じった感情で読んできた後に、桃子すいか先生が読み手の予想をふわっと軽く乗り越えて用意したラストになんとも言えない満ち足りた感覚を覚えてしまうのだと。今回、改めて自分の心の動きをなぞりながら、そんなことを考えました。

エチシーンは、CPによってあったりなかったり。それが自然で不足はない。
実は一番エロいのが、黒髪メガネの君だったとは。ビックリした…。
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