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魚豊

足るを知る。

ネタバレ
2025年1月22日
このレビューはネタバレを含みます▼ 色々と凄い作品の「チ。」の作者さまは、やっぱり凄かったです。
ジャンルはラブコメですが、まぁ深い!!そして痛い!!読んでいる間、心にズサズサと突き刺さり、読後思い出してまた痛い。
それはどうしようもない『格差』を突きつけられたからです。
所得の格差、学歴の格差、教養の格差、意識の格差…等々の根源が「知能格差」であると。人は生まれた時点で遺伝子によって既に平等では無いのだ。。。解っていましたが辛いです。

主人公の渡辺は小学4年生の時に習った論理的思考をヨスガに生きています。多分人生で数少ない、もしかしたら唯一の栄光だったかもしれない、はなまるの小テストを四畳半の壁にセロテープで貼っています。冒頭だけでこんなに痛い描写です。
そして、武器であるはずの論理的思考を使いこなすことができません。さらに自分は頭はいいんだと言い聞かせる痛さです(泣。

そんな渡辺は陰謀論の沼にハマっていきます。陰謀論に引き摺り込まれてしまう様子が滑稽で、なのになんだか怖いです。

痛い怖いばっか言ってますが、もちろんそればかりのお話ではありません。
登場人物は皆、格差の壁を超えて「世界を良くしたい」と思い行動しています。
「世界」の定義が違ったり方向を間違ったりで悲劇も喜劇も起こります。
ヒロインである飯山が社会問題の解決に尽力する理由がドラッグ漬けの子どもにあり、子どもがドラッグ漬けになった理由がピザ屋発砲事件にあり、発砲した犯人には社会的疎外感があり…その記憶を引き出したのは渡辺のノートにある。

危ういライン上にいる弱者を救いたい。そんな志しを持つヒロインとの関わりで得るものを得た主人公、だったのかな〜と思います。格差の上位に居るけれどノブレス・オブリージュではないところが良かったです。
そして日常は続くのです。以前の痛い姿から少し浮上した彼は立派だと称賛したいです。

全体的にセリフが多くアクションの少ない作品だと思いますが、キャラ各々の内面を見て、切なくて愛おしくてちょっと哀しくなりました。
読みながら感情をいろんな方向に揺さぶられ、色々と考えさせられました。正解のない問題を解く過程を楽しんだような読書でした。
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