そんな激情で殴られたい【単行本版】
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そんな激情で殴られたい【単行本版】

紫比呂

尾を引く作品

ネタバレ
2025年6月13日
このレビューはネタバレを含みます▼ 気味の悪さを星5で語るレビューと、虫に関する注意喚起をありがたく受け取めて拝読。一気に読んで、もう二週間は経つのに表紙とタイトルが頭から離れない。ちらりと読み返しては、仄暗く閉じた関係にゾクゾクとする。

ツンギレ受けの七瀬が押さえ込んでいる欲望を、玄野は上手に意識させる。コンプレックスを刺激して七瀬の激情を引き出し、自分の情欲を見せつけることで七瀬の欲望を捕まえる(しかもその間、ずっと玄野は気味が悪い)。
七瀬の怒りが虚勢なら玄野の怒りは防御だろう。多感な思春期に、何もしていないのに拒絶されてしまう自分を少なくとも怒りは守ってくれる。次第に防御は玄野を攻撃する者への性を帯びた仕返しへと姿を変え、彼なりのコミュニケーション方法となってきた(この辺の歪みに玄野の闇深さを感じるのと、挑発的に食す・じ慰する行為に走るのがもう…。やばいね、本当に頭から離れてくれない)。その奇行が七瀬の激情の中に弱さと欲望を見つけた瞬間、歪んだ繋がりを生み出し、寂しさと大きな穴を埋める激情に変化する。これはもう、どうしたって逃れられないやつ。
蝉の鳴き声に追い立てられた焦燥感と相まって、濡れ場のじっとり感がひたすらいん猥。可笑しさも含め、玄野のいやらしさと気味の悪さはクセになる。

レビューに惹かれて購入した作品なので、他レビュアー様たちの解釈を読むのも楽しい。そういう意味でも、とても尾を引く作品。

キャラクター紹介にある玄野の趣味・休日の過ごし方は、自立する以前の劣悪な環境(現在も大概だけど)からの脱却とその意思を意味してるのかな?なんかもう、玄野が知りたくてたまらん!
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