口紅 美しき軍医の一生
」のレビュー

口紅 美しき軍医の一生

川端新

切なくも美しい…

ネタバレ
2025年9月13日
このレビューはネタバレを含みます▼ 検索でお目にかかり、表紙の美しさに惚れ惚れした作品。まさにその中の麗人が身に纏っている帝国陸軍の軍服にも惹かれました。
時代は大正、主人公は陸軍幼年学校の軍医・緒方朔。自身の父親もまた軍医であった。
女性的な美しい容姿で、幼い頃から綺麗なものが好き。そんな彼は自身の性別に違和感を持っており、その想い人は、あろうことか姉の夫。

心と身体が一致しないながらも、軍医の子であり長男でもある朔。父と同じ道に進みますが、その美貌のため本人の意思と無関係に嫌でも人目を惹いてしまいます。
時代背景含め軍という男社会では、朔のような人々は取りわけ生きにくく辛い思いもしたはず。
それでも彼は外見だけでなく内面も美しく誇り高い。格好良くて凜としています。

そんな彼の一番の理解者だった姉、そして姉の夫───つまり朔の想い人でもある義兄で軍人の吉良。姉は関東大震災で、そして吉良は異動となった先のシベリアで不運にも…。しかもその異動は、朔に執着する者の嫉妬による策略。

最愛の人たちを亡くした上、凜として見えながらも自身のジェンダーに葛藤し続けた朔、彼が最終的に選んだ道。
ただただ切ないですが、時代背景も相まって、私はこの物語にはこの結末がしっくりくる気もしました。

また、それぞれの巻の表紙の絵を見比べてみると、その時々の朔の心の内がしっかりと表に描き出されている気がします。
特に1巻と3巻の表紙は一見似た表情ですが、軍服姿の1巻よりも、女性服姿の3巻の方が顔つきがずっと柔らかい。やはり、そういうことなんだろうな…。

カテゴリはBL漫画ですが、少し特殊な設定のため、BLかというと微妙に違うような…。強いて言えばブロマンスのような雰囲気でしょうか。
幸せな結末でないと!という方には強くおすすめできませんが、何とも儚く美しく、いつまでも余韻が残る作品でした。
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