逃避行じゃあるまいし【単行本版】
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逃避行じゃあるまいし【単行本版】

タクアン

磨きのかかった男たち-期間限定読み放題P

ネタバレ
2025年9月15日
このレビューはネタバレを含みます▼ 壮年期の男性を見た目そのままに、恋の揺れを描いたオムニバス3篇 195頁 星☆4.2

表題作はリーマンと元警察官の追いかけっこラブ。斧原学(まなぶ)は恋愛のピーク時に逃避してしまう習性がやめられない。毎回手軽に始めて別れ話もせず連絡を絶ってしまう。実際今までの相手は深追いしてこなかった。ところが知野半治(はんじ)は「逃げられたら、なんか燃える」と意外な反応を示す。そんな大人の恋の駆け引き。学の入念な逃避を軽々こえて鋭い嗅覚で居場所を突き止める半治の狩猟と執着がすごく刺さった。しかも学を叱責しない冷静さ(お仕置きはするけど)には驚いた。ちょうどピッタリのピースなカップル。

2作目は、大阪と東京の遠距離恋愛物語。ずっと仲良しのふたりは、青年期を少し抜けた年ごろ。上京した巽准市(じゅんいち)と大阪にいる南乃雄太郎(ゆうたろう)。離れ離れになって1年。物理的距離の寂しさを我慢していた二人。お酒が入って、会えない時間と大阪の思い出が混ざっての告白タイム。どちらも勝気で本音が言い出せなかった初々しさ。大阪カップルは会話もテンポよくてマジでいい。

3作目は、野獣に乙女。上司と部下のリーマンラブ。本能丸出しの付き合いかと思えば、結構純愛系。18頁。おじさんが恥ずかしさで身悶えしている場面がリアルすぎて叫んだ。

キラキラ、ツルツルの美男子系も大好き。しかしオジサンには時間をかけた磨きがにじむもの。お米を磨く日本酒に例えてみる。表題作は本醸造の純米酒、お米に酵母がほどよくなじんでいる。スッキリにもできるし芳醇にも傾けられるので温冷どちらもOK。2作目は、生原酒、フレッシュで酵母の酸味があり、米とお水の良さが舌に伝わる。お酒の温度管理が一番難しい、冷酒がおすすめ。3作目は、古酒か大吟醸。古酒はまろやかさが段違い、色も楽しめる。大吟醸は雑味を排除した極み。どちらも玄人が好む分野。全部1冊にはいっている。おじさん達の恋をほどよく嗜んでほしい。
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