東京物語
」のレビュー

東京物語

滝沢聖峰

テストパイロットとその妻と

ネタバレ
2025年10月27日
このレビューはネタバレを含みます▼ あらすじと試し読みで即購入した作品。昭和初期の陸軍航空隊がテーマ、私の趣味嗜好ドンピシャでした。
舞台は戦時中、物語の始まりは昭和十八年。陸軍の戦闘機乗り・白河大尉は転任で航空審査部のテストパイロットに。久々に東京に帰還し、妻の満里子と夫婦二人の生活が始まるが…。

戦時中の飛行機乗りのお話というと大抵が海軍、そして名高い零戦や紫電改がメインに描かれるものが多い中、こちらは珍しく陸軍。それもテストパイロットが主人公というあまり見ないもの。個人的に陸軍航空隊には親しみが強いので興味深く読ませていただきました。
作中には隼をはじめ飛燕、疾風、屠龍など多くの名機が登場。漫画では初めて目にした戦闘機の試作・試乗についてはもちろん、米軍機との交戦も。
日本軍機を嘲笑うかのような敵の重爆は圧倒的、まるで巨大な悪魔そのもの。日本軍が追いつけないほど進化していく“空飛ぶ要塞”の恐ろしさが嫌というほど伝わってくる。
しかし緊迫した場面だけではなく、白河大尉と満里子の日常は優しく温かい時間が流れます。試乗・交戦・私生活と、良い塩梅にお話が構成されているなと。

白河大尉が途中で知り合うことになる、海軍航空隊の石本少尉。戦闘機乗りらしく好戦的で我が強い一面もありますが、悪い人ではなく。
白河の義妹・加代と婚約し、夫妻とも懇意になる彼。陸海の戦闘機談義で熱くなり喧嘩まで始めるところ、当時もこんなやりとりが実際あったのかもなぁと思ってみたり。
加代や家族たちと語らうホッコリした平和な一時。嫌いじゃなかった石本、もっと長く登場して欲しかったな…。

そしてこの作品、大好きなテーマにもかかわらず星を減らした理由はただ一つ。結末がどうしても受け入れ難かったからです。
詳しくは書きませんが、上巻と下巻の表紙を見比べて切なくなってしまった。最後のあれは蛇足中の蛇足だったと感じます。

全体的にほぼ満足、しっかりまとまっているし本当なら満点を付けたい。
その思いは山々なんですが、やはりラストに納得いかない部分が大きくて。そこはどうしても妥協できず、この評価にさせていただきました。
いいねしたユーザ20人
レビューをシェアしよう!