ヒロイン(フェリア)はもちろん、脇を固める人物も、個性があって魅力的、素敵な作品です。騎士隊長ビンズ、担当騎士ゾット、侍女ケイト。きつい女官長。味方も敵もキャラが立って、物語を盛り上げます。脇役もいい味だしている作品は、ほぼ間違いなくアタリです。
ヒロインはお姫様らしくない。精神的に自立して、辺境で魔物に対峙していた実力者。飾らなく優しいので、他のお姫様警護の騎士達も癒しの場としてやって来るようになるのが、可笑しい。美味しい食事、症状に合わせた薬草茶、鈍った身体の鍛錬、ふかふかの枯れ雑草ベッドで仮眠…あなた達、くつろぎ過ぎでしょう?ツッコミを入れたくなりますが、これもヒロインの人柄ゆえです。
肝心のヒーロー(マクロン)との出会いは、あまりの質素さにヒロインをお付きの侍女と勘違いして始まります。ヒーローは最低限の義理だけ果たすつもりでしたが、他と違いとてもくつろげる雰囲気に包まれて、夕食後に眠りこけ、翌朝も素朴な朝食をふるまわれます。そこでやっと侍女ではなく、31番目の妃であると気付きます。何も言わずただ疲れきった自分を労ってくれたヒロインの心遣いがしみるヒーローです。すっかり好きになってしまいます。
もともと女官長からは冷遇され、王マクロンの夜のお渡りがあったと認知されているので、他の妃達から嫌がらせを受けるようになります。それに負けずにさばいていくヒロイン。しかも相手を過剰に追い詰めたりしない配慮までして。単純な意地悪をしていた15番目の妃(ミミリー)などは父親共々、窮地を救われます。夜会では他国の王族と堂々と渡り合い、11番目の妃の父公爵に器の大きさを感じ取らせます。
ヒロインは領主の妹で貴族ではありません。それでも一国を担う器がある稀有な存在。歴史の豊臣秀吉の正室ねねを思い出しました。平民から関白の妻にまで身分差を駆け上がったにも関わらず、役目に遜色なかった女性です。
ヒロインもヒーローも、為政者である事を第一とし、甘々なだけではいられません。それでも、怯まず、笑顔で突き進むヒロインに、本当に元気を貰えました。