深い話とか感動作とか、そういうのではないんです。ものすごく乱暴に要約してしまえば、ほとんど痴話喧嘩している話。なのに、どうしてこんなに心臓掴まれて、揺さぶられてしまうんだろう。
読みはじめの印象は、二人とも性格の破綻っぷりが突き抜けていて楽しい~という程度。瑞貴なんて普通にいたらただのモラハラ男で、BLだからまあ笑っちゃうけど、好きというほどではなかったんです。なのに、葉に醤油取らせてゴキゲンなのを、不覚にも可愛いと思ってしまった。いや、そんな彼を憎からず思ってしまう葉が可愛かったと言うべきか。あり得ないほど面倒くさい男が二人くっついたら、こんなにも可笑しくて可愛いというミラクル。
そして、瑞貴の表情から、いやもう全身から、「好き」が溢れているのが堪らないんです。王子でも暴君でもない、もうひとつの顔を見せてくれたのも良かった。ただの異常な執着じゃなくて、この人は本当に本物の葉が欲しいんだなぁって。
素直じゃない葉が、ときどき素直さを出すようになっていくのも、威力がすごいです。「嫌い」という言葉が、はじめの方と最後ではあんな風に変化するなんて……やられた~。
「お世話」とか「マウンティング」とか、美味しいシチュエーションも盛りだくさんで、とにかく読みごたえ有り。伏線回収もさりげなくてきれい。あと小さいことなんだけど、第5話で初めて明示される、ある人のある物が、実は最初からきちんと描かれていたのにも、ちょっと感動しました。綿密に丁寧につくりあげられた作品だと思います。
万さんも大好き。師匠と仰ぎたいです!