アンダーでその日暮らしの生活をしている男とアッパーで殻に閉じこもって生活をする男、そしてその兄弟たちのお話。
とても静かな世界観の中でゆっくりと変わっていく関係性に心を動かされる優しい作品です。久世と章生の2人の空気もとても不思議で、お互い兄を持つ弟として、そして兄を大事に思う気持ちがある者同士として心を通わせていく様子は深い兄弟愛をその身に一身に受けた者同士としての深い共感性を感じます。しかし、そこにたゆたうささくれだった謎の過去が、なかなか明かされることがないまま話が進むので、前半は少し歯がゆく思うことがありました。けれど、徐々に明かされていく兄たちの愛の軌跡がとても切なく、この空気感をゆったりと描き続けた三池先生の描写力は本当に見事だと思いました。
兄同士の愛の物語、弟たちの愛の日常、そして2組の兄弟愛、言葉が多くない静かな世界に存在する愛の結晶が、しんしんと降り積もる雪の様に重なっていきたくさんの人の心を溶かしていく。涙なくては読めない素敵な物語です。映画のような立体的な奥行きを感じさせるこの作品はBLという枠組みを取り払って読んでもらいたいお話だと思いました。