リバース
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リバース

麻生ミツ晃

オメガバースの真髄を教えられた

2021年6月6日
本書の前後にもオメガバース系を結構読んだが、格別に心を打たれた一本。ストーリーについては既に素晴らしいレビューが幾つも上げられているので、少し違う観点から。

昨年、十数年ぶりにBLに戻ってきて衝撃を受けたことが2つ。1つは敬愛する作家陣で引退・他界された方が少なくないこと。もう1つはオメガバースの隆盛だった。正直、違和感を覚えた。
それは、「αとΩが主役でβは (何をどう言い繕ったところで所詮) モブ」という大前提にそこはかとない選民思想の匂いを感じたり (すみません)、成功者αたる運命の番=白馬の王子様が迎えに来て万々歳という昔の少女漫画的・ハーレクイン的・ディズニー的・ご都合主義的テンプレ (まとめてホントにすみません!)を感じたから。

そもそも生理・生殖に縛られた女という性を生きる生きづらさを感じているからこそ、純粋に愛情だけで結びつく関係の理想をBLに求めた人が多かったはずなのに、何故わざわざ妊娠・出産・育児を持ち込むのか…とも。

だが、この作品で腑に落ちた。

そっか、オメガバースは「生きづらさ」というテーマのバリエーションなんだな。制約のない自由などない。そして誰もが等しく生きづらさを感じている。

ともすると「主人公になるべくして生まれた稀少で尊い存在」とか「絶対不可侵の絆で結ばれた2人」などとして描かれがちなαとΩも、そんな「世界の主人公たち」の引き立て役・背景として雑に描かれがちなβも、この物語の中では特別でも例外でもない。
αだから容易に生きられるわけではなく、βだから悲しみを感じずに生きられるわけでもない。テンプレ化された幸せの確約はなく、生きる上での苦しみをどうやって乗り越えていくのかと問いかけるオメガバース。
そこに安穏としていられなくなったのは残念だけど、美化され尽くした世界観からリアルさを取り戻し、登場人物たちの心情をありありと感じられる世界になってきたことを喜ぶべきかも。

そう思いつつ二読、三読してみる。吐木が火傷を負った円を見舞う病室から見えた青空と、円に本を貰った女子中学生がこぼした涙が、美しくて胸に沁みた。
そして改めて表紙絵の窓ガラスを伝う雨の雫が、ガラスに映り込んだ円が吐木をあざむく苦しみにのたうち人知れず頬を濡らす涙、彼の慟哭に感じられて胸を刺した。

もしも似たような理由でオメガバースが苦手な方がいたら、この本をお勧めしてみたい。
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