神様なんか信じない僕らのエデン
」のレビュー

神様なんか信じない僕らのエデン

一ノ瀬ゆま

鳴り止まない拍手を贈りたい

ネタバレ
2022年4月8日
このレビューはネタバレを含みます▼ BL AWARD 2022 第3位おめでとうございます。私的には1位の最高傑作ですが、1位に輝いた作品もこの上なく素晴らしいので、同率首位くらいに思っています。これを知らずしてオメガバースを語るなかれ、と叫びたい。この感動を簡単には語り尽くせないので、ぜひ読んで感じて頂きたいと強く願います。
人類史上初のオメガバースという斬新な設定が興味深く、出来上がってしまっている壮大な世界観よりも、その起源に注目した着眼点が素晴らしく、難しい展開を見事に描ききった作者様に惜しみ無い拍手を贈ります。これほどまでに心を揺さぶり、震えるほどの作品に出会えた喜びは久しぶりです。最初から最後まで、ドキドキとした高揚感が収まらず夢中になって読みました。
心も身体もまだ未成熟な少年たちの身の上に起こる未知なる出来事。突然の肉体の変化に戸惑いや混乱がすごく伝わって来るし、誰も経験した事のないものへの不安や恐れは計り知れないと思う。頭の中に流れ込んで来る心の声や、目に見えるような設定は目新しくて、混乱を増すと同時に心を寄り添わせたくなるのも自然です。
抗えない欲望に包まれた小さな体育倉庫は、彼らにとってのエデンの園。世界にたった二人だけしかいないような感覚に陥りそう。自分たちの身に起きている事が不安でありながら、それを上回る身体の疼きが熱を放つように伝わって来る。画力の高さに加え、描写が官能的で美しく見いってしまうほど素晴らしい。これこそがエロス。
生殖行為は子孫を残すための本能ですが、自分たちの変化の意味がわからなくても備わる本能が感じ取り、突き動かされていく様が息を呑むほど。番行為に抗うのも無意識であり、身体が知る本能が凄い。
たった7日間で己の状態を手探りで考え、答えを導く冷静さも素晴らしかった。そういう中で生まれて来る様々な感情や恋心など繊細な心理描写にも惹き付けられます。独りで耐え抜こうとする西央も辛いし、寄り添いながら自分の中の負の感情と戦う痛みを知る織人も切なかった。ずっと胸が詰まる思いで、涙が溢れて来る。想い合って、すれ違って、傷ついて、心が叫んでそうな。爆発しそうな好きという感情を押し殺す切なさがたまらない。もがいて苦しんで、好きの気持ちが残った二人に涙です。一週間が経ち、離れがたい二人の何とも言えない距離感が良かったぁ。最後の愛の告白はプロポーズのようで感無量です。続編が楽しみですね。
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