影の国から
」のレビュー

影の国から

高岡あまね

影の国を各自がどう感じるか…余韻が凄い

ネタバレ
2022年4月14日
このレビューはネタバレを含みます▼ 読後、思わず涙が出てしまったが、死が悲しいとか誰が可哀想とかそういう感情ではない。この世の無常というか、人の運命は結局このように淡々と決定していくものなのかなという諦観。
このような読後感になるのはやはり5話から6話のトワの描き方のためだろう。(当真・和樹の存在に引っ張られるか、トワに引っ張られるかで本作の読後感はだいぶ変わるのではないだろうか)永遠を生きて、人の死への感想も「美味しい」それ一点しか持たないトワは、手塚治虫の火の鳥のように、生物とは異なる存在である。
影の国の死は、ほろほろと崩れ小さな結晶となる、まるで美しいもののようである。そもそも影の国の住人達は、あっちの世界のコピーのようなもので、感情も生への執着も、薄く低温なものなのかもしれない。どうせ決定権はあっちの世界にあるのだから。

そんななか、自身の孤独の理由を知らず、自覚のない異邦人として生涯を終えるオサムのキャラクターが物哀しい。あっちの世界と地平を隔ててシンメトリーのように暮らしながら、密かな違和感を押し殺して役割を全うしたオサム。これを残酷と捉えるか平穏と捉えるか。

過去に読んだ新井素子の「ずれ」という短編、あれは鏡の向こうに同じ世界があるお話であった。忘れられない話で、読んで以来、鏡の中にもう一つシンメトリーな世界があるイメージをずっと抱えて生きている。本作も同じイメージを鮮やかに思い浮かべることができて、とても心に馴染むお話でした。
また良い作品に出会えました。
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