便利屋アズマは星を数えない
」のレビュー

便利屋アズマは星を数えない

一樹らい

深い人物造形がもたらす満足度の高さ

ネタバレ
2024年8月25日
このレビューはネタバレを含みます▼ 始めましての作者様ながら、夜明けの腐女子にぶっ刺さる読後感。1巻ではキスも未遂で未完なのですが、かなりの良作に育つと感じました。
【ネタバレ】
 表紙の黒髪の受け、柊月は、ゲイであるというセクシュアリティに嫌悪感のある生きづらさを抱えた大学生。過去の出来事から、美形で繊細な感覚の持ち主ながら感情に蓋をして、自傷行為のように複数の男と身体を重ねて生き延びて。が、ある日出会った大学内で便利屋をしているノンケの東との出会いで、元来の純粋な感情が引き出されて、自分らしく生きて行っていいんだ、と、自己肯定感を初めて持てるようになり、東に惹かれてしまう。でも、相手はノンケ。諦めようとして東にした依頼がきっかけで、東にも変化が…?というところまでが、1巻。
 本作では、ゲイの柊月だけでなく、足に後遺症が残っている女子など、マイノリティが感じる社会からの疎外感に光が当てられているところが、BLなんだけどそれにとどまらない視野の広さを感じさせます。
 受けの柊月が主役のように見えるのですが、タイトルや作者様が本書で記す言葉からは、便利屋をしている東の内面の変化にも比重が置かれていることが分かります。マイノリティというだけで、嫌な気持を放置されていいわけじゃない。そんな言葉を口にする東。普通なら、胡散臭かったり、作品の中で浮いた感じになりそうな気がするのですが、東が心底「誠実」さを大切に生きている人間であり、しかしながら過去に誠実さを期待されながら、勝手に失望されて深く傷ついてきて。そんな過去から学んで、自分を変えようとして便利屋をやっている。一見問題のない陽キャの彼が抱えている空虚感も描こうとしてるんですね。
 一人ひとりの登場人物の抱えている過去と、その上で形成された人物像とを、しっかり考えて作られた一つ一つのセリフの確かさが読み進めるほど伝わってきます。
 ラスト、柊月の行動で東の内面に変化が生まれてますが、彼が抱えていた相手を変えてあげたかったが救うことができなかった過去を、柊月が蓋をして来た感情を開放したという劇的変化を目の当たりにして、したかったことをなし遂げられた相手に対して、特別な感情が生まれた瞬間に特別な感情が生まれたのだと感じました。
 今回、初めての長期連載となったそうですが、確かな実力に裏打ちされてのことでしょう。応援しています
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