本なら売るほど
」のレビュー

本なら売るほど

児島青

本好きによる本好きのための本好きのお話

ネタバレ
2025年2月23日
このレビューはネタバレを含みます▼ 本好きなら確実に刺さる。
本好きな上、オタクだったら刺しコロされるかもしれない。
逆に本好きじゃなかったら「…で?」ってなるかもしれない。
とにかく試し読みの1話を読んでほしい。ページをめくるごと濃く呼び覚まされる古本の香り。古書店主の喜びややるせなさ。80代で故人となった田賀氏の充実した晩年。本棚が光って見える等々、全てが実感できてしまったら迷いなくその先も読むべきだ。

愛妻家の故若林氏は寺田寅彦。澁澤・三島好きの女子高生牟礼マリには森茉莉。このチョイスがたまらない。
こだわりの積読オタクの千円札、粋で鯔背な女たちの自由。本を愛でるスタイルは人それぞれなんだな。あったあった青木まりこ現象ww。いちいちあるあるでどんどん嬉しくなってしまう。
でもこのラストの6話に、本好きの心を一瞬で凍らせるページがある。1話で若い店主が本を処分する時の罪悪感など吹っ飛んでしまう衝撃だった。この6話のキーになる本はブラッドベリの華氏451度。本好きにとっては数十年たってもカサブタが癒えない「焚書」でいや〜な気持ちを思い出させておいてからの…と、うまいこと呼応して胸がズタズタにされた。その後の薔薇の名前(=迷宮図書館)とか。下げて上げて、ホント上手い。
本で心を砕かれるし、また本で救われる。本を人生の傍らに置き続けてきた人にぜひ読んでいただきたい。

しかし薔薇の名前上下巻900円はお買い得だな。今年秋に完全版が出版されるとか。凶器みたいな本になりそう。
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