愛から一番遠い場所
」のレビュー

愛から一番遠い場所

せきとう

感情と行動の”あわい”にあるもの

ネタバレ
2025年6月10日
このレビューはネタバレを含みます▼ 人紀と世継の多くないセリフと効果音によって、その情景や心情がとても鮮やかに表現されているな~と感じました。読めば読むほど深みが増していく感じで”味わう”という感覚がピッタリな黄昏系作品かもしれません。

人紀はこれからも世継が求めるような愛し方はできないかもしれないけど、世継を突き放すこともできないんだろうな。世継の異常な執着と独占欲はあまりに大きく、どれだけ拒絶しても人紀はなすすべもなく呑み込まれていってそこに満たされるような幸福感はない。すごい着地点です。

それでも人紀が優しい花村さんの手を取ることなく世継と一緒にいることを選ぶならそれは一つの答えだし、幸せかどうかはわからないけど、世継を受け入れてそこにいる事実はとても重い。
少なくとも世継にとってそれは何物にも代えがたい前進で、自分の命が助かったことより嬉しいのではないかと想像してしまいます。自分の人生をかけて追い縋った相手が自分の傍にいてくれる現実はきっと彼にとっては生きる意味そのもの。

ハッピーエンドともバッドエンドともメリバとも言い難い不思議な感覚ですが、この白黒つかない感じがとても好きです。
人の心は複雑で人紀のように感情と行動が伴わないことも多々あると思います。そのあわいにあるものはとても不可解で説明がつきません。だからこそ最後の人紀の選択は本能的で何よりも2人の真実に近いんじゃないかと思えて、読んでいる私は幸せな気持ちになれました。
そして何度もでてくるひまわり。本数によって意味が全く違うの知らなかったです。最後のひまわりの中での人紀の微笑は2人の未来が暖かいものである暗示のようでホッとします。
ちょっと苦みのあるこういう作品も素敵で心に残りそうです。
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