りんご、木から落ちる
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りんご、木から落ちる

犬時/笑平

りんごと語り手

ネタバレ
2025年7月22日
このレビューはネタバレを含みます▼ 配信されて間もなく購入し、このストーリーを思いつく人は凄いと胸がざわめいた。
全4作品の短編集で1巻198頁。さらに2巻は2作品が収録されており75頁。どの作品も粒そろいで全部語りたいがレヴュー制限できつい。
まずは表題作「りんご、木から落ちる」は評価がダントツ高い作品。
学園の人気者(ファンクラブまである)黒川楓がリンゴの着ぐるみ姿で熱中症に倒れてしまう。彼を介抱したのは園芸部部長の高見清春だった。これを境に楓は清春に惹かれていく。やがて告白。普段の楓はキザで自信家。歯の浮くセリフをサラリと口にするも何故か人気者。そんな彼が清春と二人きりになると赤くなって可愛い乙女(それもとびっきりのウブな少女)になるギャップが衝撃だった。楓の懸命な好意を可愛いと思いながら自分の見た目や性別で釣り合わないと悩んでいく清春。思慮深く誠実な清春と好きに前向きな楓。対照的なのに思いあう熱量が同じなのもグッとくる。笑平先生のタッチは一目で分かる。クセとみるか味と感じるかは受け手次第。少なくとも楓が乙女になる瞬間の表情はこの作風だからこそ。清春の性格や行動は犬時先生の繊細な世界観が伝わってくる。2巻は部室で我慢できなくなった二人が進展、誠実なはずの清春がリードして萌えポイントだった。

2作目は人の心の声が見える大学生と後輩の話。3作目は女装趣味のゲイとノンケリーマンの話。コメディの要素を盛り込みながらも最後は感情が振れてしまう内容になっている。

つぎは4作目の「オレは人気者」闇DKBL。マウントを取らないと落ち着かない鈴木五郎とドジな仮面の下に闇を抱えている小笠原洋介。1巻ではこの二人の奥深いところは計り知れなかった。2巻でやっと二人のドメスティックな関係が見えてくる。だが、それが加虐性なのか執着なのか寂しさを埋める素材なのかは作中ではつかみにくい。このあと五郎の家庭環境や洋介の仮面を作っていく過程があれば希望は差してくるのか。しかし物語はその一部しか開かなかった。
素晴らしい語り手として輝く才能をもっとたくさん発揮できた犬時先生、ハートを打ち抜く作品をありがとう。また読みます。
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