蒼究の十字架
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蒼究の十字架

大竹直子

花のように、儚いながらも美しい物語

2025年8月26日
作者様買いです。“しのぶれど”~“白の無言”の帝国陸軍が舞台のお話がとにかく大好きだったので、こちらも。
本作は陸軍の特攻兵が主人公となっています。もともと非常に興味があるテーマだったこともあり、手に取らせていただきました。
そして青年漫画にカテゴライズされているとおり、BLではありません。ほんの少しブロマンス風味を感じますが、全年齢の方が読める内容だと思います。

英(はなぶさ)省吾は花屋の息子。かわいらしい容姿や家庭の事情から、近所の悪ガキに絡まれることもしばしば。
幼馴染みの正平兄ちゃんは、陸軍士官学校に首席で合格し、今は飛行将校を目指すエリート軍人。そんな彼に憧れ、ともに戦いたいと省吾は自らも陸軍の飛行機乗りになることを決意します。

省吾たちの搭乗機として一式戦闘機・隼が描かれ、実在の著名なエースパイロット・加藤建夫陸軍少将の名前も挙がります。本当に偶然なのですが、とある博物館で加藤少将機仕様の塗装が施された隼を見学してきたところ。すごくタイムリーだった…。
また特攻隊の取材をライフワークにされているという大竹先生の作品ですので、当然のごとく陸軍の航空兵の装備等もしっかり考証が成されています。素晴らしい。

美麗な絵柄も相まって、ただひたすら切なくて儚く、そして美しくもある物語です。
生き残ろうと思えば生き残れるチャンスがあったにも関わらず、祖国や戦友を思う心・軍人としての矜持がそれを許さない。もはや勝ち目はないと薄々感じながらも、死地へ赴く気骨ある若者たち。
現代に生きる私にとっては、それが歯痒くて堪りません…。

読みきりのためか、お話の進み方はだいぶ駆け足。なので、欲を言えばもっと長尺で省吾と正平の関わりを追いたかったです。
ですがとにかく作画が素晴らしい。かわいい省吾と男前の正平。大竹先生が描く凛々しい飛行機乗りが見られたことはとても満足でした。
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