「東京ヒゴロ
」のレビュー

東京ヒゴロ

松本大洋

大人の心に火を灯す物語

ネタバレ
2026年1月12日
このレビューはネタバレを含みます▼ 本作は、漫画家である松本大洋先生自身が抱いた漫画を創作することに対する情熱と、それを商業化することの葛藤とを、一時は脚光を浴びた漫画家たちの挫折から始まる物語。50代の自分には、痛いほど刺さった…

 主人公の塩澤は50代の漫画編集者。漫画雑誌を一つ潰した責任を取って出版社を退社したところから物語は始まる。編集者として挫折した塩澤から見える青い炎のような、静かだけれども真摯な漫画に対する愛。編集者として挫折した彼は、一度は漫画と距離を取ろうとしたものの、それができず、自分が見込んだ漫画家たちに声をかけて、一冊の雑誌を作り上げようとする。出てくるのは、塩澤が見込んだ作家たちだが、漫画に対する情熱と商業化との間で心をすり減らしてしまったり、創作がままならない環境にいたり、とかつての情熱が燻っている人たち。

 松本先生は、それぞれの作家たちが、何に心を動かされ手漫画を描こうとしたのか、それが今できないのはなぜか…を丁寧に描く。自分が楽しみにしている漫画を創ることがいかにエネルギーを要するものなのか、思い知らされる。

 しかし、塩澤の青い炎が、作家の身体の底にくすぶっていた漫画への情熱の導線に点火し、再び創作に取り組む意欲を取り戻した時の活き活きとした表情…あぁ、漫画家の先生たちは、それこそ人生を燃やして創作をしているのだなあ。編集者と作家、それぞれの漫画にかける真摯な姿勢と再生する姿が、胸を打つ。作家からすれば、一度、理由をつけて諦めた創作への思いに、再び火を灯そうとする塩澤は、有難いような迷惑なような存在なのかもしれないが…
 けれども、塩澤が灯した創作への灯が、一人の作家を、編集者を、書店の店主を、少しずつ照らし、それぞれが、かつて持っていた情熱を、本当の自分を取り戻していく姿が、いいんだな。東京ヒゴロ、というタイトルは、これが「東京」という街の「日頃」日常、という意味をかけているのかな、と考えた。
 ちょうど、塩澤と同じ50代として、社会の中で折り合って、ある程度のところで成果を出して上手く生きていかないと…と、自分自身をなだめすかしている身に、ドカンと、それでいいのか?と思わせる、同世代の心に炎を灯す物語だ。
 そんな風に、読者の胸に余韻が残る作品に出会えた喜びを分かち合いたくて、またもやレビューをしたためてしまった…
 3巻のうち1巻無料企画、有難かった!
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