学生時代に大きな文学賞を獲った作家が、祖父が所有しているアパートの立ち退き交渉のため訪れた田舎町で出会った童顔の作家と恋に落ちるお話。
タイトル、ストーリーの展開、海と律太のやりとりなど、あらゆるところでの言葉遊びがとても上手いと思いました。ギャップがあって掴みどころのない海の性格も、1秒も進まない海の作品も、時が止まったような海の幼さも、全てを律太が言語化して説明してくれているので、読者が迷子になることはありません。その上で、二人の下ネタ交じりの会話もツッコミもテンポが良く、そのノリで言いたいことをズケズケとぶつけ合える素直な関係性が良かったと思います。
特に言葉選びの中で感心したのは、律太がえちを「究極のプライバシーを見せ合った仲」と表現したのがとても印象的でした。えちの気恥ずかしさとか、特別感がぴったり当てはまる言葉だなと思います。子供っぽさと作家らしい聡明さの二つが同時に楽しめる面白い作品です。