山小屋にて
」のレビュー

山小屋にて

菅辺吾郎

人との関係で疲れたときに沁みる山BL

ネタバレ
2025年3月29日
このレビューはネタバレを含みます▼ こちらの作品、レビューの良さとほっこりした表紙に惹かれて手にしてみたら、最近、癒しの空間だったレビューページの仕様が変わったりしたことで別れや負の感情を浴びたりすることがあり、ちと疲れたな…、と思っていた自分の心が読後表紙のように温かくなる、救いと癒しの物語だったのです…!

 まず、主人公の山本が遭難しかかっていた熊飼と山小屋で遭遇するのだけれど、やりとりがテンポよくてユーモラス。クスクス笑って読み進めると、下山した山本の会社での姿が描かれる。あぁ、会社人間として、身に覚えのあるネガティブワード満載のモノローグ。営業、という仕事上、求められる人とのコミュニケーションに苦手感のある山本が、息苦しさを感じ、自分をぽんこつ、と評する姿は、ちょっと読んでいて苦しくなってくる。

 そんな瞬間に登場し、山本と再会する、熊飼。山で会ったときの印象のままの熊飼は、山ではぽんこつなのに、会社では有能な営業マン。会社、という限られた空間とモノサシで見ると、スポーツマンで陽キャの熊飼の方が評価されるだろうけれど、熊飼は山で出会った時の敬意と好意を抱いたまま山本に接し続ける。このフラットな態度が、やや陰の感情をひきずっている山本(と読み手)の気持ちを高揚させていき、山本のモノローグもいきつ戻りつしながら次第に高揚していくのが、とってもいい。

 対照的に見える2人だけれど、熊飼のモノローグで、彼も体育会出身でスポーツで挫折した経験があり、会社での期待に応えなければ、というプレッシャーを抱えている中、山の中のぽんこつな自分の姿をさらして助けてくれた山本の前では素の自分をさらけ出せることが分かっていく。どちらも、他人から見た自分を意識して生きざるを得ない会社という社会に息苦しさを感じ、そこから開放された山という空間で出会ったお互いの関係を大切にしているという共通点があることが分かる流れが良くって、熊飼が山本に惹かれるのも自然に思える。
 さらに明かされる山本が山に登る理由。これが、人間の深淵をのぞくような感覚を覚えるものなんだけど、熊飼に誠実に向き合おうとして、全部自分の胸のうちをぶちまけ、それも受け止める熊飼の包容力に山本だけでなく読み手も救われるんですよ…!

 人との関係で疲れたとき、それを救うのは人との関係なんだなと。そんな気持ちで心が満たされる作品。良き。レビューに感謝!🍃
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