千年紀末に吠える恋
」のレビュー

千年紀末に吠える恋

みよしあやと

喪失から生まれる愛と引きの美学が見事

ネタバレ
2025年4月27日
このレビューはネタバレを含みます▼ こちらの作品、戦国物、中華ファンタジーBLで、いきなり最愛の人の死から始まるなんて、どういうストーリーなんだろう、と思ったら、喪失から生まれる愛の描写と引きの美学の見事さに、思わず惹き付けられて涙せずにいられない作品だったのです。
【以下、ネタバレ】
 主人公は、戦国時代に朱の国で戦士として育てられた天陽。彼には戦士だった、雨流(うる)という幼馴染がいたのだけれど、戦禍で自分をかばって雨流を失い、その悲しみを抱えながら、敵国蒼の国に乗り込み、いざ将軍を倒そうとしたら、その姿は雨流そのもので…。いきなりのピンチと同時に、自分に平気で襲いかかってくる姿に戦慄を覚えていると、実は、蒼の国の呪術で死体から感情をなくして器として蘇らされた、死屍(しき)だった…もう、この始まりだけで、甘い感情の回想と喪失の哀しみ、怒り、驚き、絶望、とストーリー展開と感情のアップダウンが激しくて、すっかりこの物語世界に入り込んでしまう出来栄え。

 天陽は、ある取引で、再び雨流が蘇る可能性にかけて雨流の死屍である欠月(かけげつ)のそばで過ごすことになり、不死身であり、唯一感情のある死屍である欠月の姿、振舞いに雨流の思考、感情の残渣を感じ取っていく一方で、まだ生まれての2歳児欠月が、最初はワンコ以下だった情緒を、天陽と交わる中で、次第に育てていき、情緒が赤ちゃんから、本物の愛とはなんぞや…?というレベルにまで育っていく姿が、なんともエモいんですよ!!そもそも、人間らしい感情のない、人外扱いされてきて、それを当然と受け入れてきた不遇な欠月が愛情というものをポツリポツリと感じて、天陽に対してまっすぐ感情を向け、愛情をほとばしらせる姿が、尊い以外の何ものであろうか?(反語)と、真顔で論じたくなるんです…‼当然、もしも雨流の感情が蘇ったら…?という疑問も湧いてくるけれども、そんなときも欠月が雨流が蘇れば良いんだとさりげなく笑うんですね。いやもう、欠月といい、雨流といい、皆、引きの美学が見事なの。「お前が幸せならそれだけでいい、俺のことは構うな」っていうね…そりゃあ泣いちゃうってもんですよ。天陽も、そんな健気な欠月を失い難く思っているところで2巻は終わり。感情を揺さぶられる作品作りと緩急ある展開がお見事👏個人的には、人ならざる者として天陽への思いを自覚しながら葛藤する欠月とのハピエンをキボンヌ(古っ!
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