悪役令嬢の中の人~断罪された転生者のため嘘つきヒロインに復讐いたします~
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悪役令嬢の中の人~断罪された転生者のため嘘つきヒロインに復讐いたします~

白梅ナズナ/まきぶろ/紫真依

恋愛至上主義からの脱却が魅力的

ネタバレ
2025年7月12日
このレビューはネタバレを含みます▼ 本作については、既に数多くのレビューが存在しているけれど、始めから終わりまでずっと新鮮さと絵の美しさを高水準で保っていて、ズバ抜けた存在感を放っていると思う。
 その理由は、悪役令嬢エミリアの幼少期に転生した人間エミを、実はそのエミリア本人が、エミを異空間で見守っていて、星の乙女なる乙女ゲームのヒロインの仕掛けた罠に嵌められて失神したのを機に、エミリア本人の魂が身体に戻り復讐を果たすという斬新な構成と、エミリアとエミ互いを大切に思い合うシスターフッドのような関係性の尊さが主題に貫かれ、いわゆる恋愛至上主義から完全に脱却しているところにあると思う。

 そもそもゲームの中で才能と美貌を兼ね備えたレミリアを破滅に追いやったのが、皇太子への恋愛感情という執着にあったシナリオは、善良な市民として無償の愛の中で育ったエミの前では無効化されていく。そんなエミと魂を交歓しているレミリアは、エミの中の豊かな愛情や善良さそのものを最も慈しみ、乙女ゲームが前提としている恋愛至上主義をあてがわれることなく、何が自分にとって最も大切なのか、それ自体、自分達で選んでいくという、価値観の多様化した現代社会を反映したような人物像をリアルに描いているところが魅力的かつ新鮮に感じるのだ。

 少し前の時代の恋愛至上主義にどっぷり浸かって生きてきたけれど、実は出版社などが作り出してきたモテのることこそ正義、という空気感に踊らされてきたな…と省みる人生の折り返し地点で、こういったヒロイン像が支持されるのも、至極合点がいく。
そんなヒロイン、エミリアが、全てのことに達観しているようで、魔王アンヘルという最大の攻略キャラからの愛情を好ましく思って応えつつ(彼も美しくて、その実可愛らしい魅力的なキャラだった…)、エミリアが本気で泣くのは、エミからも無償の愛を受けたことで世界から疎外されて不信感に満ちていた彼女が絶対に裏切らない味方を得て世界が愛情に彩られたことへの感謝を告白するときなのだ。密かに愛着関係の形成が人の幸福感に繋がることを示しているシーンで、上手いな…と思う。

 アニメ化企画があるそうで、今から善良キャラと非情キャラを行き来するエミリアがどう描かれるのか楽しみで仕方がない。未読なら是非、一度手にしてみてほしい、おススメ作品です!
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