どこにもない国
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どこにもない国

草間さかえ

いとしさを守る男たち

ネタバレ
2025年8月11日
このレビューはネタバレを含みます▼ 草間さかえ先生の短編集。202頁
表題作「どこにもない国」と「パラダイムロスト」は上官と部下の物語。終戦間近の南方戦線で上官・竹内慎介は部隊の問題児・早川正美に厳しい指導をしていた。極限状態の部内を治めるには理屈より権力と暴力が役に立つ。二人は暗黙のルールを共有していた。そして終戦後、内地に戻った二人は竹内宅で共に暮らし始める。50頁ほどの作品。

草間先生の作品は良品宝庫で、そこはかとない品格が特徴。表題作の竹内はひ弱な上官かと思えば、内地では抜刀の姿麗しく、迫力の空気感を漂わせる。それだけで前半の印象は消し飛んでしまった。早川は若く、美丈夫で情熱的。戦地では早川が盾になり、内地では竹内が守る。戦中戦後の移り変わりをタイトルのパラダイムロストで飾るのも秀逸。

「1と2の間」は幼馴染との恋を描いた高校生・哲男の話。「0と1の間(前後)」と「0か1の世界」は哲男の同級生・三ツ矢と鶴田の長い恋路。恋のどうしようもなさを味わうことができるおススメ作品。最後は茶道の先生と高校生の恋「もののことわり」。全7編が収録されている。

男性的な骨格で軍服よし、着物よし、学ランよし、スーツは尚よし!で形式美と人物の色気がたっぷり詰め込まれている。10年以上前の作品でありながら、色あせを感じない1冊。
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