ポジティブなゆり子さん
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ポジティブなゆり子さん

平澤枝里子

月が繋ぐ大人の絵本のような物語

2025年9月6日
大人になっても、心の奥底には子供の頃から変わらない純粋な気持ちが隠れている。
 そんな風に思っているからか、人の純粋な思いが凝縮されている作品に出会うと、自分の心の中の真綿でくるんだような、純粋な感情が引き出されて心が動かされてしまうことがある。
 本作は、稀に出会う、そんな人の善良な感情が凝縮されている物語。加えてウサギのミミとホホジロザメのジョーの出会いと別れの物語も入っていて、方向性は違いながら、どちらも月が道標(みちしるべ)のように描かれているのが印象的。

 表題作のタイトルロールにもなっているゆり子さんは、27歳というお年頃で職場ではリーダーを務め、部下のシゴデキな山口くんと、ちょっと自己評価低めな戸田くんに囲まれている。
 なんというか、この山口。絵柄がメルヘン調だから、試し読みではピンと来ないと思うのだけれど、悪気なく思わせぶりなのよ…ゆり子さんが、恋心を抱くのも仕方がない、なんならこっちもちょっとキュンとしちゃうんだだが?と、素朴なタッチなのにイケメンに見える不思議…。
 そんな山口に気持ちを揺らがされるゆり子さん。その内面が、7歳、17歳のときの彼女の回想や登場によって、描かれる。どこまでもそれは純粋で。タイトルから想像する「ポジティブ」はミスマッチかもしれず、一見、そう見える彼女の内面は、繊細で、さざ波のように揺れている。けれど無理してポジティブなわけではない。
 大人になっても、その純粋さを携えられるのは奇跡かもしれないけれど、その純粋さが、人の持つ本質的には純粋な部分…子供の頃に持っていた根っこにある感情で、どこかでそんな感情を共有したいと信じたい気持ち…を引き起こす魅力に溢れている。
 山口も、戸田もそんなゆり子さんと過ごすうちに、そういった感情を引き出されて、生じる変化が描かれている、素敵な読後感の作品。

 同時収録の「夜を泳ぐ」は、ウサギの女の子、ミミ視点で描かれる「SideMimi」では、ウサギ界の美醜に悩まされていたミミが異種であるホオジロザメのジョーと出会い、心を通わせる。人間界のイジメ問題を彷彿とさせつつ、その救済に心が温かくなる。
 次いでジョー視点で描かれる「SideJoe」は捕食者視点で彼から見たミミへの思いが描かれる。捕食者の孤独を描くテイストの違いの吸引力たるや。
 セールとクーポンで200ptと思えぬ味わい✨
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