恋心に踊らされた4人が紡ぐ大正ロマンとデカダンス。情景が細部に渡って描き込まれていて、大正時代を作品全体で感じられ、登場人物は美しい。美少年が美しい旦那様の情夫というのも耽美です。伊月が密かに想っている芳野に触れられたあとの月夜を背景にした踊りは、足のこともあり、ゾクッとしつつ尊く儚くてきれいでした。芳野の崇拝のような愛もゾクッとします。下巻はかなり切ない読了感で、環の表情や言葉のひとつひとつが辛かったり痛かったり。この時代の同性愛のひとつのしあわせのかたちではあると痛感しましたが、穏やかな暮らしをし始めていた環にとって本当に良かったのだろうか、と思う気持ちもあります。結城はほんとに地獄のような男です。環や伊月には筋の通った、または共感できる心情と言動を感じましたが、結城や芳野には葛藤の気持ちが強い分、ヘタれていたり、行動のブレを感じるところが多々ありました。ふたりそれぞれが踊る姿に、伝わってくる行き先が対照的です。絵が素敵で、特に窓を使って朝の日差しや夜の暗闇、月明かり、風の通りや窓越しの想い人など時と心情を描いていたのは印象的でした。