第二次世界大戦末期、国の為に自らの命を武器に闘うべく募られた特攻隊の男たちの秘められた夜を描いたお話。
戦時中、しかも特攻隊というピンポイントなテーマを描いた作品は多くの漫画がある中でもかなり珍しいと思います。そんな難しいテーマをBLジャンルで描くというのは批判もあるかもしれませんが、作者様のチャレンジ精神は素晴らしいです。そして、読めばBLジャンルでは語りきれないことは分かります。
確かに男同士の性的な関係がメインで描かれているという点ではBL漫画です。でも、BがLするというのとは違います。戦時中、皆がお国の為にという一つの方向を向いている時代、男だけが寝食を共にしながら、命の灯火を燃やし尽くすその時までに戦い続けた様子はとても研究して描かれているし、その時代を必死に生きた人たちに対する尊敬と敬愛の念はキャラたちの表情や言動一つ一つに込められていると思いました。この難しいテーマに対して多くの賞賛が集まるのは、物語から作者様のそういう情熱が伝わるからではないでしょうか。そして、そんな情熱すら、「これはただのエロ漫画」だと言い切り、全力で趣味嗜好に振り切った作品だから要注意ですという作者様の姿勢が大好きだなと思いました。
上下巻で様々なCPが登場しますが、私はやっぱり八木と志津摩が一番好きでした。厳しい制裁をする怖い上官の一面と臆病で傷つきやすい一面を持った八木と、自分の性的嗜好の苦悩を八木への慕情に昇華させ堂々と黒い襟巻きを巻く志津摩。個人の性格や嗜好すら抑圧され、男として生まれた運命に従わなければならない二人のそれぞれの生き方が儚くも無惨で、戦争という環境が生み出した歪な関係性が一番顕著に描かれていると感じました。裏表紙のような二人の素の幸せそうな笑顔が夢物語であることが、とても哀しくて印象的でした。
性的なえちシーンは性欲発端のものが多く、特別な感情があっても愛ではないパターンばかりです。また、青年漫画風の筆致で、筆圧と描きこみが強めの絵柄です。そういうのが苦手な方にはお勧めしづらいですが、BLでも戦争漫画でもない、深い人間物語、時代漫画になっていると思います。多くの物事を考えさせられる素晴らしい作品には間違いなしです。