白の無言
」のレビュー

白の無言

大竹直子

それぞれの運命に呑まれる二人

ネタバレ
2025年8月23日
このレビューはネタバレを含みます▼ 五編の読み切りのうち、表題作“白の無言”について。
シリーズ作品である“しのぶれど”、その番外編“貴様と俺”を先に拝読し、ようやくこちらにたどり着きました。随分と期間が開いてしまった…。
微笑ましくて可愛らしくもあった前述の二作品。それらと大きく違い、本作は“幸せな結末ではない”。先にそう知ってしまったがゆえに、読みたい気持ちはあれど覚悟が決まらなかったのです。
寝かせて寝かせて、やっと読むことができました。

時代は昭和初期。陸軍士官学校の同期で良きライバル・親友同士である高橋と桐島。“しのぶれど”では、この二人の日常風景と淡い恋心がコミカルに描かれました。
本作では陸軍の青年将校らが起こしたクーデター、二・二六事件を背景とし、彼らはそれぞれの運命に呑まれていく。
官僚と軍人。己の信念を貫くため、道を分かつ高橋と桐島。そして二・二六事件は起こり、“敵同士”とならざるを得ない二人…。

まさかのラスト。しばらく茫然…。“しのぶれど”での二人を見ているからこそ、切なくて切なくて。
できるなら“しのぶれど”のほんのり緩い世界を永遠に繰り返して欲しいと思ってしまう。
後ろ髪を引かれるような別れ方をしたまま五年、一度も顔を合わせることがなかった二人。桐島は高橋が置いていった軍刀で…という描写、それが高橋に対する桐島の想いの全てですよね。
二人とも確かにお互いを想い合っていたはずなのに、五年前の最初で最後の交わりが幸せに満ちたものではなかったのが悲しい。
そんな中でも耽美さと背徳感を感じてしまう濡れ場は美しくてゾクッとします。ただモブレのシーンもありますので、苦手な方はご注意を。

“しのぶれど”・“貴様と俺”を読まずとも理解できる展開になっている本作ですが、未読の方はぜひその二作とも読んでいただきたいです。高橋と桐島の人となりがより深く窺い知れ、より深く物語に入り込めること間違いなしです。
※出版年は本作が一番早いですが、時系列は“しのぶれど”→“貴様と俺”→本作となっています。
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