「壇蜜」
」のレビュー

「壇蜜」

清野とおる

観察記のようなのに尽きない愛を感じる

2025年10月18日
人と人との間の見えない境界は何によって生まれるのか、ふとそんなことを考えてしまう自分にとって、壇蜜は性別と国籍が同じ以外は完全に「こちら側じゃない人」だった。黙って微笑んでいれば百合のように清楚なのに、ひとたび脱げば豊満な身体が…って男性から見たら理想の女性なんだろうけど、女性であることを売り物にしているところで、自分との間には深い溝がある感じがして

 ところがつい最近、この作品の紹介動画が上がってきて。初めてロケ番組で知り合ったその日に実は壇蜜がプロポーズをした、という衝撃エピソードにつられて、読み始めたらこれが面白いことこの上ない。この作品に出会わなかったら知らなかったであろう壇蜜の案外庶民的な住まいにそこで起こるちょっとホラーな出来事。それを上回ってホラーな壇蜜の冷静さ。常識的なようでいながら、不思議な浮遊感と磁場を漂わせる人たらしの一面…芸能人の夫だからこそ描ける赤裸々な描写が、一々ツボをついてくる。
 こちらか、あちらか、という話で言えば、作者の清野とおる先生の方が、断然こちら側なんである。サブカル好きでオタク。芸能人の壇蜜と共演したからといって、全然調子に乗ることなく、いつまでも一般人目線で壇蜜を観察して突っ込むところは突っ込んでくれている。「そうか、芸能人と知り合って結婚するとなると、こんなイベントがあったりするのか」と、読者と同じ立場から壇蜜との結婚や生活ぶりを描いてくれるから、作者と一緒に壇蜜のことを観察して知る作りになっていて…あれ、と思ったら壇蜜に沼っているのである。いつの間にか壇蜜のブログやら記事やらを読み始めてて、気付いたら壇蜜の磁場に引き込まれているのだ。

 読んでいて感じたのは、世の中の夫婦で起こりがちな、どちらが主導権を取るか、みたいな争いは皆無で、壇蜜が芸能人だから、といって変な先入観を持たない作者のフラットさ。それがもたらすであろう、素の壇蜜の面白さ。なんとも新鮮な夫婦関係。
 そう思ったとき気付いた。読む前に感じていた壇蜜との間の深い溝が、消えていることを。女性としての自分を売り出したとしても、それが彼女の全部じゃないんだ、と。
 全然恋物語らしくないのに、そんな風に彼女を読者に思わせる読後感に、作者の尽きることのない壇蜜への愛を感じた。本当に作者にしか書けない唯一無二の作品。今なら20%オフクーポン利用可
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