波真田かもめ先生の作品は、まだ全部読んだわけでは無いけれど、これは先生の魅力を凝縮したような作品だなと思いました。刺激的な要素は一切無いし、私の性癖にはかすりもしないけれど、「読んで良かった!」としみじみ思えて、読後はしばらく浸れる味わい深いお話でした。
拓人と春美、それぞれがどんな人間でどう生きてきたか、描写されてないところまで読み手に推測させてくれるので、ただの名も知らぬ隣人同士だった二人が惹かれ合うことに違和感がなかったです。理解しようとしなくてもスッと人物の感情が伝わってきました。個人的に印象的だったのは3話。初めてキスの先に進もうとする二人の一連の会話。からの翌朝の拓人のセリフ。これは拓人に全部持っていかれましたねー。不意討ち食らって、ギュン!ってなりました。これだけじゃなく、拓人くんは不意討ちが過ぎるですよ。春美じゃなくても「モテるでしょ?」って言いたくなります。
自己肯定感が地の底まで落ちていた拓人が、春美と付き合う中で、ありきたりで平凡な日常をいとおしむようになり、自分自身をもありのまま受け入れるようになっていく。その様子を見守るように読んでいくうちに、きっと誰もが意識しなくても、そのままの自分を生きているだけで誰かを勇気づけたり喜ばせたりしてるんだろうなと、私の心までとても穏やかで優しい気持ちでいっぱいになりました。