能美先輩の弁明
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能美先輩の弁明

大麦こあら

愛を説く哲学という学問とBLの組合せに酔う

ネタバレ
2024年10月10日
このレビューはネタバレを含みます▼ 哲学とBLがこんなに相性の良いものだとは。そして、こあら先生の作品作りの上手さが際立っている🌙ネタバレレビュー、お許しを。

まず、本作は能美先輩目線での語りから始まる。そこでは、作品紹介にあるような、人当たりは良いけれど、クズで、哲学を専攻しながら不真面目そうな大学生の姿が。しかし、そこに既に仕掛けがある。それは、語り手である能美先輩の自己肯定感の低さの現れである、本気になることに対する怯え、それを軽さでカバーする生き方に由来するものなのだけれど、なぜ、そんな彼が哲学を専攻したのか?という謎に、読み手の関心を向かわせる。
そんな能美先輩の前に登場する瑛人。硬質な見た目と発言、ゲイであることを隠さない態度。オープンにしている理由は、魂の片割れを探しているから、と重いこともサラッと言う。ああ、きっとマイノリティーの彼にとって、言葉で物事の本質を捉えようとする学問である哲学は、社会的な差別や偏見とは、ある意味対極にあるもので、救いになるのだろうと、想像する。
そんな自分とは対照的な瑛人に興味を持ち、軽いノリで身体の関係まで持ってしまう能美先輩。「魂の片割れ」とは真逆の身体だけの関係が?と思わせてからの、徐々に明かされる能美先輩の他人目線での評価と高い実力。哲学の関心を持ったのも、幼少期の祖母との関わりが発端で、優秀な兄と比較する母親のため自己肯定感が低くなってしまったものの、本当は哲学を心の底から愛しているのに、本気で取り組むことへの怯えから、一歩引いたところで踏みとどまってしまう心の影。
そんな、読み始めた時のクズという印象と異なる、本質的な能美先輩の純粋さと本当は哲学を愛しているのに、それを素直に体現できないもどかしさに、読み手も悶絶する中、瑛人が、実は能美先輩と知らずに読んだ哲学のレジュメに惹かれて会いたいと思っていたことが明かされる瞬間のエモさ…!!!そして、瑛人は、始めから能美先輩の本質的な優秀さと純粋さに惹かれていたことが、読み進めるごとに明かされていくこの構成。表面的かつ肉体的な関係から始まった2人と思わせておいて、実は魂の深いところで繋がっていたことが明かされた瞬間の多幸感…。すごい。本当にすごい。レジュメでその人に出会いたいと思うって、哲学という学問ならではだと思う。本質的な愛を説く哲学とBLの組合せに陶然
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