主人公にはなれないけど
」のレビュー

主人公にはなれないけど

桃子すいか

絡みあった恋愛群像劇

ネタバレ
2025年7月11日
このレビューはネタバレを含みます▼ 諸々含めて300ページ超えの、登場人物5人を巡る片想い。
桃子すいか先生のやわらかいタッチで、しんどい恋が優しく誠実に語られていきます。
誰と誰がどうなるかのネタバレは、知らない方が断然、結末の温かさに感動すると思います。

祖父の喫茶店を手伝う大学生の文哉くんには、人生の宝物のような幼馴染が二人いる。可愛くて聡明でパキパキとした女の子の一花ちゃんと、身体だけの相手が絶えなかったイケメンモテ男、海斗。文哉くんは人のことをよく見て、よく気が付くタイプの優しい男の子。三人とも、相手との関係を大切にしてきたことがよく分かる、とても素敵な幼馴染。
そこへ加わるのは、海斗が大学で知り合った明るくて気のいい先輩の諒くんと、喫茶店常連で建築士の有島さん。有島さんは学生たちと比べて少し大人な分、言葉掛けが優しく、分別と良識のある頼れる男性。いつでも文哉くんのことを気にかけてくれる、心の大きなひと。

胸がぐちゃぐちゃになるような恋愛は、物語として読むのにもエネルギーがいる。でも読み始めたらあっという間。一花ちゃんの視点回では各々の人物像がその解像度をぐんとあげ、また、有島さんの立ち位置的な切なさと想いを感じる場面では、グッと物語に深みが帯びた。それぞれの片想いが絡み合うさまに、ぐんぐんと引き込まれていってしまった。ひとりひとりの感情がとても丁寧に描かれているので、それはもう、表紙の三人の、誰が主人公でもおかしくないと思えるほどに。

育ってきた環境が与える影響は誰にとっても大きく、愛にまつわるそれらは時に呪いのように纏わりついてくる。優しいだけではない恋愛の側面と、しんどい内容にたまらず涙する場面もありましたが、後味が優しく爽やかなのは、この作者さまならでは。
読み応えのある、温かい、愛のあふれる作品です。そしてあのカットから始まる、描き下ろしが秀逸。おすすめ!

※番外編読切が7/18に配信。こんなに早くその後が見られて、とても嬉しい!
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