ちょっと待とうよ、春虎くん
」のレビュー

ちょっと待とうよ、春虎くん

あめきり

辛かった1巻を通ってきたからこその2巻!

ネタバレ
2025年4月4日
このレビューはネタバレを含みます▼ あめきり先生は、かわいい絵柄なのに、自分のことを大切にできないで育ってきた子の悲しみや喜びを、割とリアル寄りの事情を背景に描いていて、深く考えると社会問題を指摘しているような奥深さが特徴であるように思う。
 BLの持つ社会的少数者ならではの悩みや苦しみに惹かれてやまない自分は、あめきり先生のそんな作風に吸い寄せられ、これまで全作品を読んできました。
 そんな自分でも、実はこの作品の1巻はハマらなかったんです。男子校の寮という狭くて同質性の高い空間で、ゲイばれしてしまったスイをとりまく同級生の態度やセリフが、ゲイ嫌いのテンプレのように思えたり、各話毎のエピソードもむりやりエッチなシーンに持っていくための小道具のような感じがしてしまって。なので、1巻までの支持を集めたレビューには、共感するところも正直ありました。
 ところが、2巻は、1巻とはうって変わって、自然でリアルな進行に。春虎という味方を得ることで自己肯定感が上がったスイが自分の感情を表に出すようになっていき、周囲の友達の見る目も変わる、という環境の変化も描かれ、さらには、2人の親へのカミングアウトまで描かれるとは。このカミングアウト、対照的な2人の親の受け止め方と、スイの焦燥感…あんなに、カミングアウトしたら親がどんな反応をするか調べに調べて、期待と緊張でいっぱいいっぱいだっただろうに…、とカミングアウトをゲイの当事者からと、親の立場から、という両方の視点で考えさせられる構成になっていて、思わず両方に感情移入。
 スイは、一人っ子でたぶん高齢出産のお母さん(不妊治療もしたのかな…)が、大切に育ててきた存在。なのに、その母はスイがヘテロであることを疑いもせず、無自覚の愛情でスイを苦しめ、自己肯定感を引き下げてきたとは。誰も悪くないと思いつつ、切ない。でも、一度めげても、春虎という自分を全部ひっくるめて肯定してくれる存在を得て強くなったスイが再びカミングアウトに臨む姿、1巻からの成長ぶりが胸を打つ。そして起こる、2人の変化…エモい。なんかええモン見た感が凄い!
 さて、実は同性婚、いつかそう遠くない日に実現する見通しが立ってきていると思う。スイや春虎が大人になるころにはきっと。そうなったら彼らを見る友人や親の目は変わるのか、という目で読み直すと興味深い。自分も彼らの気持ちに寄り添いつつ、その日を迎えたいと思う
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